南緯32度、日本との時差12時間。日本列島の裏側、地球儀をぐるりと半周回した場所、世界最長8,000kmアンデス山脈の旅へ。日本の地平線の下、南半球の星空(宇宙)を眺めながら、南米大陸最高峰アコンカグア峰(6,960m)山頂を目指します。
アコンカグア峰BCのプラザ・デ・ムーラス(4,230m)に帰ってきました。
朝からみぞれが降り続いています。アコンカグア峰に入山してから晴天続きだったので、その風景が新鮮です。
登頂後、C2で1泊し、全装備背負っての下山スタイルとなりましたが、重力に身を任せて降りてきましたので疲れません。山頂に立てたということだけで、自然と足取りまで軽くなります。
登頂日までの安定していた天候が、下山は強風に耐えながらの行動となりました。リーダーが山頂を見上げながら「10分も登ったら撤退する日だな」という言葉を聞き、登頂率30%という意味を現場で理解します。我々がアコンカグア峰に入山する数週間前、日本の有名な俳優さんの登山チームが登頂を試みましたが、山頂まであと少しのところで残念ながら届かなかったそうです。
明日でプラザ・デ・ムーラスともお別れです。小屋の中で過ごしている場合ではありません。カメラだけを持って小屋から出ます。氷雨がフードに当たって響く音が心地よく、このような天候での散歩も楽しめます。ただ、これは無事に登頂出来たから思えることで、これが山頂へ向かう前の天候でしたら落ち着かなかったことでしょう。
ゆっくりひとり散歩。写真では残せない、この静かな雰囲気を五感全てに記憶させます。
突然、スッーっと、視界を悪くさせていた山霧が薄くなり、アコンカグア峰の岩壁が見え始めました。
突然、サッーっと、真っ白だった空が青い空に一変します。これが山での天候の急変なのでしょう。登山中、これが逆のケースだったことを想像すると恐ろしくなります。
風に流される山霧の移り変わりは、真っ白な美しい風そのものを眺めているようです。山は「麓から見てよし、登ってよし、山頂から眺めてよし」です。
黄昏時には快晴となりました。昨日までの乾燥しきった空が、みぞれに磨かれて、澄み切った艶のある空になりました。
プラザ・デ・ムーラス最終日。アコンカグア峰は最後の最後まで、さまざまな姿を見せてくれます。滞在日数の長さから見慣れていたはずの夕映えも、最後と思うと気持ちが入り込んでしまいます。
夕食の時間と重なりましたが、最後の夕食より最後の夕暮れが気になってしまいます。
早々と食事を済ませ、最後の星空散歩を楽しみます。人はやはり「最後」という言葉に弱いのでしょうか、夜空はいつもと変わらない無機質な世界のはずですが、星座の姿ひとつひとつが情緒的に浮き上がって見えてしまいます。