南緯32度、日本との時差12時間。日本列島の裏側、地球儀をぐるりと半周回した場所、世界最長8,000kmアンデス山脈の旅へ。日本の地平線の下、南半球の星空(宇宙)を眺めながら、南米大陸最高峰アコンカグア峰(6,960m)山頂を目指します。
C2ベルリンキャンプ(5,950m)へ運び上げる装備と、C1に残す荷物を仕分けます。高所順応を兼ねてC1に訪れる度に荷揚げとして少しずつ装備を運び上げましたが、登頂後は全ての装備を背負って1回で運び下ろします。使用したザックは〈cougar 70-95〉(当時のモデル)と〈L.Audoubert 40〉、ザックの上にザックを載せた下山スタイルをイメージします。BCまで危険な箇所はないため、重たいだけで問題ありません。
最も気に入った山を「私の一名山」としますが、〈L.Audoubert 40〉は「私の一名ザック」です。今回の山行で〈cougar 70-95〉が仲間入りするまで、登山日数に関係なく、登山に限らずバイクでの旅でも、いつも〈L.Audoubert 40〉ひとつでした。その気心知れたお付き合いは20年間程続いています。〈L.Audoubert 40〉と一緒にC2へ向かいます。
C2までの標高差は800mほど。単調なルートを淡々と歩き続けると、木造の避難小屋が見えてきました。C2到着です。
キリマンジャロ峰の標高を超え、自身の最高地点です。体調も平地と変わりませんが、やはり空気の薄さは実感します。
BCから見上げる程だった山頂も、すぐ目の前です。
景色も一段と高度感が増します。全ての峰に名前があるのでしょうか。これほどの山々ですから、未踏峰もありそうです。
このような斜面をスキーで滑走したら爽快でしょう。標高6,000m近いベルリンキャンプでも凧揚げでもと思い、ザックに凧を忍ばせてきましたが、先日、このキャンプ地でドイツの登山者が強風で滑落されたことをリーダーから聞かされます。不謹慎と思い、止めておくことにしました。C1で夕焼けを眺めている時、C2からストレッチャーで1名搬送されていた光景を思い出します。
この標高でアンデス地方特有の悪天候、白い嵐と呼ばれているビエント・ブランコに見舞われたら大変です。入念にテントを設営します。
積乱雲が発達した鉄床雲が近づいています。好天に連日恵まれていますが、エル・プロモ峰の山頂に向かう日だけが悪天候だったことを思い出させます。
[定点観測:北]
夕食準備のため雪を集めてお湯を沸かします。コッヘルに沈殿した砂が混ざらないように紅茶を入れます。この標高での気圧から沸点は80度ほど。美味しい紅茶をいただくには、ちょうど良い温度かもしれません。
[定点観測:北]
食事を終える頃、夕暮れの時間帯になりました。天候も安定しているようです。
[定点観測:北]
宇宙空間は高度100,000mから先の世界なので桁が全く違いますが、標高6,000mまで宇宙に近づけたことが嬉しくなります。
今晩も無風。光害ない静かなキャンプ地で、希薄な空気を深呼吸しながら夜空をひとり眺めていると、宇宙空間に少しだけ触れているような錯覚に陥ります。
オリオン座の横を、時速28,000kmで宇宙空間を飛行する人工衛星が通過します。山で眺める星空は、宇宙飛行を疑似体験させてくれます。標高6,000mでの星空散歩。今回の登山の目的が半分達成できました。満天の星に出会わせてくれた今晩の天候に感謝です。あと1日、この好天が続くよう星にお願いしながらシュラフに入ります。