世界で初めて世界五大陸最高峰に登頂した冒険家・植村直己さんの活躍に、どきどき、はらはら、わくわくしていた小学生。通学路の世界しか知らない子どもにとって、スーパーヒーローです。その冒険家の遭難を知った時、「世界五大陸最高峰に登ってみよう」ぼわっと頭の中でそんな思いが広がりました。「憧れ」から「挑戦」に変わった瞬間、高校1年生の時でした。
昨夜、夕食を済ませた後、標高3,720mホロンボハットでの星空を眺めて、ゆっくり過ごしました。山好きで星好きでもあるので、昼夜関係なく1日を楽しめます。しかし、星好きであっても、一晩中夜空を眺めて過ごすわけにはいきません。翌日の登山に影響が出て、仲間にも迷惑をかけることになってしまったら大変です。仮眠程度でも数時間、しっかり睡眠を取ります。そして夜明け前、再び星空の世界に戻ります。
目覚まし時計は必要ありません。天文薄明が始まる頃、有り難いことに体がしっかり起こしてくれます。フィルムカメラ、中型三脚、レリーズ、フィルム、観測記録ノートを持って、静かにテントを抜け出します。夜空は快晴、気持ちのいい星空が広がっています。独立峰なので、広いアフリカ大陸を見渡せます。星座は見る場所、時代に関係なく、同じ姿をしていますが、その星空と一緒に眺める、その場所からの風景と星空がリンクして、いつまでも思い出として記憶されます。フィルムに記録される星景写真は、自分にとってはメモ程度の資料です。野焼きを行っているのか、雲海の切れ間から、焚き火のように大地が燃えています。
職場のプラネタリウムで、緯度・経度を設定してあらかじめ目を慣らしてきても、初めて眺める南半球の星空に戸惑います。アフリカ大陸を眼下に、有名な南十字星が浮かんでいます。
細い月と金星、木星が並んでいます。天の川が消え、暗い星から徐々に消えてゆきます。明けの明星まで消えたら、次は御来光を待ちます。
登山初日は、熱帯ジャングルの中、動物探しの動物園登山。2日目の昨日は、奇妙な植物、ジャイアント・セネシオを眺めながらの植物園登山。そして3日目の今日、岩石と砂の世界、鉱物登山。標高差1,000m、荒涼とした風景の中をひたすら歩き続けます。標高5,151mマウェンジ峰を眺めながら歩いていると、最終水場に到着しました。この先には水場がないため、どのパーティーもポリタンクに水を溜めてから進みます。
最終水場を過ぎると、草木のない景色が広がります。風もなくとても静かな世界。火星にでも降り立ったような風景です。
遠くに点として今晩の野営地、キボハット(標高4,720m)が見えます。風景の中に比較する物がないと、目の錯覚で限りなく遠く感じます。その点に向かって登山者と思われる、いくつもの点々が砂漠の中をモゾモゾ動いています。
変化の少ない単調な風景に疲れると、カメラの24mm広角レンズから200mm望遠レンズに替えてマウェンジ峰を眺めます。キリマンジャロ峰とは異なる山岳の世界が広がります。憧れていた山に登りながら、その山から見える素敵な山々にも登りたくなります。山に取り憑かれている方々、登山に終わりがない理由を改めて感じます。