南緯32度、日本との時差12時間。日本列島の裏側、地球儀をぐるりと半周回した場所、世界最長8,000kmアンデス山脈の旅へ。日本の地平線の下、南半球の星空(宇宙)を眺めながら、南米大陸最高峰アコンカグア峰(6,960m)山頂を目指します。
南米大陸最高峰・アコンカグア峰(6,960m)登山 vol.1は こちら
キャンプ地を出発して数分、距離にして数十メートル、登山靴がグジュグジュに濡れました。360度どこを見渡しても草一本生えていない乾燥地帯ですが、登山ルートである足下だけが湿地帯という理不尽さ。16年前に購入した、恥ずかしいほどの旧式の革製登山靴ですが、高校1年生からこの1足で登山を楽しんできました。旧式登山靴がゆえ、ワックスを塗り込んでいても水をしっかり含んで重くなりますが、いつものことなので慣れています。夕方、このキャンプ地に戻る頃には乾くでしょうが、テント手前の湿地帯で再び濡れてしまうことでしょう。
登山靴と一緒に購入した40Lザック、ピッケルも一緒に登ります。同じ時期に購入した銀塩MF一眼レフカメラも一緒です。道具は長く使い込むタイプなので、最新モデルと比べてしまうとデメリットばかりが連なり、使い続ける理由は何も残りませんが、愛着のある道具と一緒の登山は、理屈抜きに幸せな気持ちになります。水を吸い込んで重たそうな色に変色した革靴も、ご愛嬌です。過去16年間の思い出が染みこんだ愛用の道具に、アンデス山脈での笑い話が仲間入りします。
迷いようのない単調なルートが続きます。落石の心配もありません。お天気の心配もない、今日1日、のどかな山行を約束してくれる、やさしいお空が広がっています。「お菓子が食べられる」「ゆっくりお茶が飲める」ことの合図となる、リーダーからの「ここで休憩にしましょう!」の声がかかるのを待ちながら、黙々と歩き続けます。
南米大陸での初めての雪原を通過。明日のキャンプ地、エル・プロモ峰登山BCとなるラ・オーヤ(4,200m)に到着です。標高4,000mを超えたため、空気の薄さも少し感じられてきました。
天文好きにとって、キャンプ地は眺望が大切です。空の広さ、視界が良ければ、風の通りやすい場所でも大満足です。ランチを食べながら、方位を確認、四方囲まれている頂の高度を地平線から指で測定し、このキャンプ地での星空を具体的にイメージします。星座早見盤のように、夕方、真夜中、明け方、このキャンプ地で見上げる星図が仕上がると、本数の限られたフィルムで何から撮影しようか、起床時間は何時にしようか、楽しみながら悩み始めます。
岩壁を眺めると、太平洋プレート、ナスカプレートと南米大陸の押し合いで盛り上がり、構造運動によって出来上がったアンデス山脈誕生物語の一端を垣間見れます。登山を楽しみながら地球も学べる、ジオパークのようなルートです。職場の総合博物館には、地質担当の学芸員も勤務しています。今日歩き続けたカール状の地形や、隆起を物語っている岩壁の模様について、ここで専門家から生解説を聞きたかったと思ってしまいます。
季節は真夏ですが、標高の高さから気温は低く風も冷たいのですが、日差しが強いため妙な暑さです。着替えによる時間のロスは避けたいため、休憩毎に仲間同士、ウェアの選択を相談し合います。
下山開始。明日、再びここに戻ります。来た道を振り返ると、美しい雲たちが湧き始めています。単調な登山道、下りの早いこと。富士山の下山道を思い出させます。そして再び湿地帯に到着。せっかく乾いたソックスがまた濡れてしまうことを覚悟します。考えてみれば飲めるほどのきれいな水、洗濯と思って湿地帯を直進です。