世界で初めて世界五大陸最高峰に登頂した冒険家・植村直己さんの活躍に、どきどき、はらはら、わくわくしていた小学生。通学路の世界しか知らない子どもにとって、スーパーヒーローです。その冒険家の遭難を知った時、「世界五大陸最高峰に登ってみよう」ぼわっと頭の中でそんな思いが広がりました。「憧れ」から「挑戦」に変わった瞬間、高校1年生の時でした。
昨日の今頃は、標高6,000m近い場所で氷河を見上げていましたが、今日は熱帯ジャングルの中。動物を探しながら、大きな樹木を見上げます。標高が下がり、酸素濃度が上がっているだけでなく、この樹木たちからの出来立て酸素が新鮮で美味しいこと。樹々の香りもよく、気がつくと無意識に深呼吸を繰り返してしまいます。
午後になると、雨雲が湧き始めました。雨が近い雰囲気は世界共通。予想(予感)通り、雨が降り始めましたが、登山道が川になることまでは予想(予覚)していませんでした。「篠突く雨」という表現がぴったりの激しい雨。フィルムカメラだけは濡らさないよう、気をつけます。
心配していた雷雨になることなく、20分程度で雨は上がりました。見た目以上に水はけは良いらしく、川となっていた登山道もすぐに元通り。
ひとりで歩いていることに退屈し始めた頃、ふたりの現地ポーターと一緒に歩くこととなりました。「ねぇ、飲み物持ってない?」「じぁ、食べ物は?」ふたりに挟まれて、左から右からテンポのいい営業トークが続きます。外国人登山者を相手に手慣れている様子で、そのコンビネーションによるジェスチャーの面白いこと。
残念ながら、お菓子ひとつ持ち合わせていないため、世界共通の「ごめんなさい、何も持ってないよ~。」のジェスチャーで答えます。「記念に写真を撮らせてもらっていい?」と相談してレンズを向けると、ふたりとも決めポーズもやはり「何か持ってない?」でした。
パキスタン・イスラム共和国の首都イスラマバードから車を1時間ほど走らせて世界遺産タキシラ考古遺跡に立ち寄った時、同様のシーンで何も手渡せないでいると、ウルドゥー語?で怒鳴られながら石を投げられて怖い思いをしましたが、ここはイメージ通りの陽気なアフリカ、大声で「じゃ~ね~!」風の挨拶で別れます。一期一会の徒歩旅、標高8,000m峰級の無機質な高所登山に憧れますが、登山を通じての人間臭い旅も大好きです。
道幅が広くなり、地図で現在地を確認しなくても麓が近いことが分かります。無事に登山を終えられそうなことに安心しつつ、登山の終わりが近づくことに寂しい気持ちが膨らみ始めます。小学生の夏休み最終日、夕方の気持ちそのものです。
石碑を通り過ぎます。何が彫られているかは、そのレリーフの雰囲気で何となく想像できます。
登山ゲートに到着。これから登山を始めるための入山手続き、ガイド料交渉中の登山者に、5日前の我々の姿が重なります。
お世話になったガイド、ポーターの皆さんともお別れです。気持ちのいい方々のお陰で、素敵な登山になりました。ギルマンズポイントからウフルピークに向かった時のスピードには、ヒヤヒヤでしたが…。