世界で初めて世界五大陸最高峰に登頂した冒険家・植村直己さんの活躍に、どきどき、はらはら、わくわくしていた小学生。通学路の世界しか知らない子どもにとって、スーパーヒーローです。その冒険家の遭難を知った時、「世界五大陸最高峰に登ってみよう」ぼわっと頭の中でそんな思いが広がりました。「憧れ」から「挑戦」に変わった瞬間、高校1年生の時でした。
宿へ向かう途中、「バオバブ」に立ち寄りました。プラネタリウム解説員としては、サンテグジュペリの「星の王子様」に登場する巨木を見ておきたかったからです。木を1本眺めるという心構えと遠近の感覚のズレで、遠くからそれを目撃しただけで、その巨大さに戸惑います。
子ども心を失ってしまった大人に向けてのお話であり、文中の「大切なものは、目に見えない」は、心に響きます。「世界五大陸最高峰に登ってみよう」、そんな思いが高校1年生の時に広がってから10年も経ってしまいました。「星の王子様」に登場するバオバブの木を前に、アフリカ行きを諦めなくて良かったこと、10年間も憧れ続けた峰に登頂しても、目に見えるものは何も残らないことに物語と重なります。
車に乗り込む前、リーダーにお願いして、ふたり並んでバオバブの前で記念写真を撮りました。リーダーと並んで撮った、最初で最後唯一の1枚です。リーダーは、無口ですが、とてもやさしい人で世界中を旅しています。写真を撮り終わった後、歩きながらリーダーに「お金と時間があったら、どこに行きたいですか?」と訪ねると、無表情のまま「嫁さんと一緒に温泉へ行きたい …」とても小さな声で話されました。尋ねてはいけないことを聞いてしまったような、気まずさが車に乗り込むまで続きました。その1年後、リーダーの父親から、リーダーが亡くなった連絡が入りました。
今日は大晦日。少しだけ立派なホテルに泊まることとなりました。まだ夕方ですが宿泊客だけでなく、従業員もお祭り前の雰囲気です。夕食時も、賑やかすぎて同じテーブル同士の話し声すら聞こえません。やはり疲れていたのか、これから数時間後にアフリカで新年を迎えるという気持ちより、眠気が上回ってしまい、すぐに就寝。気がつくと翌朝、ちょうど初日の出の時刻となっていました。
宿泊者の皆さまは、夜通し飲み続けたのでしょうか、それとも初日の出を拝むという風習は日本だけなのでしょうか、眺望の素晴らしいベランダに出ているのは、私ひとりだけ。初日の出を、ひとり黙って眺めます。日本との時差は6時間。日本はお昼時、大勢の方々が初詣に向かっている頃でしょう。静かすぎる元旦の朝、家族のことを思い出してしまいます。