世界で初めて世界五大陸最高峰に登頂した冒険家・植村直己さんの活躍に、どきどき、はらはら、わくわくしていた小学生。通学路の世界しか知らない子どもにとって、スーパーヒーローです。その冒険家の遭難を知った時、「世界五大陸最高峰に登ってみよう」ぼわっと頭の中でそんな思いが広がりました。「憧れ」から「挑戦」に変わった瞬間、高校1年生の時でした。
真夜中に起床。音で外が無風であることが分かります。すぐにテントから出て、見上げた星々の輝きに安心します。普段でしたら星は観測の対象ですが、山頂を目指す今日だけは、そのチャンスが約束されたメッセージに思えます。
夜空は快晴。山頂目指して単調な上り坂をひたすら進むだけです。坂道が途切れて平坦になった場所、そこが山頂。辺りは真っ暗、ヘッドライトで照らされた足下だけを見つめながら黙々と歩き続けるだけです。目指す山頂、標高5,895mウフルピークを見上げると、オリオン座が重なっています。その整った星の並びは、世界各国の古代文明に登場するほど。人類発祥の地であるこのアフリカ大陸で、はるか10万年前に猿人の皆さまも独立峰に沈む星々の様子を現代人以上に神々しく眺めていたことが想像できます。
標高5,000mを過ぎると、空気の薄さに苦しめられ始めます。初めて経験する高所の苦しさを経験出来ていることに喜びつつ、楽しみつつ、登り続けます。夜が明けた頃、最初の休憩。振り返ると、登山者でないと見られない世界が広がっていました。
坂道が途切れ、平坦な場所になりました。リーダーに確認しなくても、標高5,685mのギルマンズポイントに到着したことに気がつきます。視界が水平に広がったその風景は、アフリカ大陸とは想像すら出来ない氷河の世界でした。
現地ガイドに案内してもらいながら、仲間ふたりでギルマンズポイントを通過して、最高地点ウフルピークを目指します。
アイゼン装備のないまま、低温で硬くなった雪の斜面を歩き続けます。
ピッケルが欲しい状況ですが、万が一を考えても、キリマンジャロ峰登山にピッケルを携行する考えは全くありませんでした。現地ガイドからの「ここ滑りやすいから、気をつけて」の分かりやすいジェスチャーを見て、素直にうなづくだけです。
熱帯ジャングル探険から始まったキリマンジャロ峰登山。そのゴールは、氷点下10度近い氷河の世界、滑落に気をつけながらの冬山登山となりました。現地ガイドは、私たちふたりをとっとと山頂まで案内して早く下山したい気持ちが、その登るスピードに出ています。
現地ガイドに取り残されないよう、無我夢中で後を追い続けると雪道から溶岩道に。富士山のお鉢巡りを思わせる登山道が、ゆるやかな坂道となってピークまで続いています。圧倒的なスケールの氷河に驚かされます。繰り返しになりますが、ここがアフリカ大陸であることが信じられません。