南緯32度、日本との時差12時間。日本列島の裏側、地球儀をぐるりと半周回した場所、世界最長8,000kmアンデス山脈の旅へ。日本の地平線の下、南半球の星空(宇宙)を眺めながら、南米大陸最高峰アコンカグア峰(6,960m)山頂を目指します。
C2出発。昨夜のミーティングでのリーダーからの予告通り、最初からとても早いペースで山頂へ向かいます。落石を引き起こしそうな不安定なルートを一気に駆け上ります。
フィルム一眼レフカメラの重さがポジフィルムに記録を残すというモチベーションを上げる一方で、この早いペースでは登山とは関係ない、わずか1kg程度の機材が堪えます。
シャッターを切る瞬間、平地での撮影の癖で無意識に呼吸を止めてしまいます。1枚撮影するたびに、希薄な空気中の酸素を求めて息が大きく乱れます。標高7,000m近い場所であることを、カメラが分かりやすく教えてくれます。
その瞬間は、突然来ました。目の前に反対側の風景が広がります。山頂です。腕時計で確認すると予定より2時間も早い時刻です。標高7,000mにも満たないアコンカグア峰ですが、私とっては特別な場所。山頂に到達したことが信じられません。長い時間、地面ばかり見つめ続けました。山頂でのファーストショットは地面です。
山頂に立った瞬間、達成感に上限がないことを初めて知りました。作家さんではないので、この気持ちを上手に表現できないのが残念ですが、満足感、幸福感、爽快感、安堵感、安心感など、心地いい気持ちが全て満たされた気分です。これほど深い達成感に包まれるとは予想していませんでした。アコンカグア峰が登山の魅力を改めて教えてくれます。
自宅で寝ていて、アコンカグア峰に登頂した瞬間の夢を見て、両手が掛布団を押し上げたこともいい思い出です。夢にまで見ていた夢が現実になりました。
「ここが山頂か……」と地面ばかり眺めていたため、山頂からの眺望はあまり記憶に残っていません。
個人的な解釈ですが、月面に降り立ったNASA宇宙飛行士12名も、足元ばかり眺めていたように思えてなりません。
自動巻き機械式腕時計を外して記念撮影します。帰国してもこの腕時計を眺めるたびに、いつでも山頂での気持ちに戻れます。安価な時計が宝物になりました。
〈karrimor LAudoubert 40〉から、写真1枚を取り出して記念撮影します。ここまで大切に運んだ、母校の中学校の校長先生から預かった全校生徒と先生方全員の集合写真です。子どもたちと一緒に登頂したようで嬉しくなります。帰国したら地元の中学校、小学校、幼稚園でアコンカグア峰での登山や星空のことをお話しします。ひとりでも「山っていいかも」「星っていいかも」と思っていただけたら、これほど嬉しいことはありません。
帰国後、幼稚園でお話をしたときの「お山でカミナリ様に会えましたか」という素敵な質問が忘れられません。