南緯32度、日本との時差12時間。日本列島の裏側、地球儀をぐるりと半周回した場所、世界最長8,000kmアンデス山脈の旅へ。日本の地平線の下、南半球の星空(宇宙)を眺めながら、南米大陸最高峰アコンカグア峰(6,960m)山頂を目指します。
初夢で今年一年の吉凶を占いますが、朝食の時間まで快眠してしまい夢など見ませんでした。「一富士二鷹三茄子」、遠征中なので富士山に登っているリアルな夢など見れば縁起が良いのでしょうが熟睡です。目が覚めれば、ここはアコンカグア峰BC。一富士が夢に出てこなくても、目の前には高校生の頃から夢見ていた南米大陸最高峰がそびえています。そして、目が覚めても、私にとってここは夢の世界です。
21世紀2日目。休息日なので、BCでごろごろして正月三が日を満喫します。21世紀とは無縁の風景が最高のお正月番組。コーヒー片手に、何時間でも観ていられます。
時間は贅沢なほどたくさんありますが、寝正月で過ごす気にはなれません。元旦はC1へ初詣(共同装備荷揚げ)、本日はご近所様に新年のご挨拶へ。
世界中から集まるBC。同じ目的、目標で集まった山好き同志、言葉の壁などありません。
突然の訪問にも驚きません。ひとりの東洋人、アジア人ぐらいにしか分かっていませんが、初対面でも気さくな会話がごく自然に始まるから不思議です。
世界五大陸から集まったBCのご近所様への挨拶回り、一期一会のご縁を楽しみます。登山が終われば、故郷の各大陸、世界五大陸にそれぞれ散らばることでしょう。
午後は、お正月遊びです。南米大陸の裏側、日本から凧を持ち込みました。学生の頃、50㏄スクーターで日本を一周した旅でも凧を持参して、日本中の空で揚げました。北海道で揚げた凧を、その数週間後に鹿児島県の開聞岳で揚げた時、理屈抜きに爽快な気持ちになりました。その思い出から、250㏄オフロードバイクでシルクロードを旅した時も新疆ウイグル自治区に凧を運び込み、少数民族の方々と凧を揚げました。ウイグル語など話せませんが、「一緒に遊ぶ」「一緒に楽しむ」、これだけで十分です。
皆さまに迷惑をかけてしまったら大変です。BCの端っこまで行って準備します。「アコンカグア峰での凧揚げは世界初では?」なんて考えるだけで楽しくなります。
乾いた碧い空を泳ぐように……。
スルスルと……。
アンデスの空に凧が吸い込まれてゆきます。
見上げるほどのアコンカグア峰の頂と、空の一部となった凧の点像が時々重なります。峡谷を吹き上げる風の力強さが、凧糸から伝わってきます。風は目に見えませんが存在します。目に見えるものが全てではないことを、凧糸の引きが教えてくれます。
ひとりの男性が凧で遊んでいる私のところに来ました。とても無口な方で、会釈程度の挨拶を済ませると、私の横で長い時間、無言で凧を眺めていました。何を思っていたのかは分かりませんが、互いにひとつの凧を見上げながらふたりで言葉ではない会話を楽しんでいるように感じられました。
登山に凧は不要。ですが、私の旅には必携のギアのひとつなのです。