南緯32度、日本との時差12時間。日本列島の裏側、地球儀をぐるりと半周回した場所、世界最長8,000kmアンデス山脈の旅へ。日本の地平線の下、南半球の星空(宇宙)を眺めながら、南米大陸最高峰アコンカグア峰(6,960m)山頂を目指します。
南米大陸最高峰・アコンカグア峰(6,960m)登山 vol.1は こちら
夜明けのプエンデ・デル・インカを、ひとり散歩します。旅先での散歩は楽しい時間。その時間帯が夜明け前だと、ひとりですが甘美なひとときです。夜気が残る世界を満喫します。暗い星から消えてゆき、無彩色から有彩色の世界に刻々と変化してゆく光景は壮観です。
西暦2000年12月31日、20世紀最後の日の出を拝みます。
南米大陸の裏側、日本では20世紀最後の日の入りを迎えた頃です。日本との時差12時間の国、日本から眺めた日の入りが、南米大陸では日の出となります。
理屈では分かっていても、日本から眺めていた日没の続きを初めて自身で確認できたことに、そのささやかな嬉しさに小躍りしながらロッジに戻ります。
登山ゲートで、メディカル・チェックを受けます。医師から体調に異常があると告げられたら、ここから先には進めません。診察を受けるまでの順番待ち、皆さん神妙な顔つき。もちろん私も。メディカル・チェックの横には、登山者の急病人を搬送するためのヘリでしょうか、赤いヘリ1機が、すぐにでも離陸できそうな状態で待機しています。機体を見ていると不安な気持ちになり、連動してメディカル・チェックの診察結果が心配になります。
医師から「問題なし」と告げられます。アコンカグア峰登山開始の号砲が鳴った瞬間です。
清々しい気持ちに満たされて歩き始めます。
そのタイミングに合わせたように、南米大陸最高峰、南半球最高峰、西半球最高峰、ヒマラヤ山脈以外では最も標高の高いアコンカグア峰の登場です。初めて見る標高7,000m弱の峰。その峰だけが雪に覆われ、それら最高峰の肩書きを持つ風格、貫禄がその周辺の峰々とは別格です。
これからその山頂を目指します。登山が嫌いな人がその立場になってしまった場合は、「嘘でしょ!」となりますが、登山が好きな人の場合は、「本当に!」となります。自分自身が、その山頂へ向かえることが麓に立っても信じられません。仕事に追われる社会人でも「いつかは挑戦できるはず」と念じ続け、気持ちを切らせず粛々と準備だけは6年間続けてきて良かったことと、その思いを理解していただいた方々に恵まれたことへの感謝の気持ちに包まれます。
アコンカグア峰登山は、登山の技術としては難しい峰ではありませんが、働き盛りの社会人が長期休暇をいただくことの難しさを身をもって経験した上での登山なので、「信じられない」という気持ちが消えません。消えないどころか、アコンカグア峰に近づくほど、その気持ちが強くなってゆくような感覚です。
登山技術の難しさとは別に、国内外の山に関係なく、標高の高さに関係なく、人それぞれ目指す峰をひとつ決めて、登山者は入山する前にもたくさんある「壁」を無意識に登って、準備されているのでは。「入山するまでの登山」と「入山してからの登山」、どちらも登山に必要なスキルのように個人的には感じます。その両方の困難さの度合いが深いものほど、登頂に成功した時の達成感、充実感が嬉しさに反映され、これが登山の醍醐味のように思えます。その魅力を知った時、山に取り憑かれてしまった瞬間です。