南緯32度、日本との時差12時間。日本列島の裏側、地球儀をぐるりと半周回した場所、世界最長8,000kmアンデス山脈の旅へ。日本の地平線の下、南半球の星空(宇宙)を眺めながら、南米大陸最高峰アコンカグア峰(6,960m)山頂を目指します。
南米大陸最高峰・アコンカグア峰(6,960m)登山 vol.1は こちら
メンドーサからアコンカグア峰の麓、国境に近いプエンデ・デル・インカ(2,770m)へ向かいます。観光地であることはリーダーから聞かされていましたが、建物も少なく閑散としています。チェックインを済ませたら、いつものようにカメラ片手にひとり散策します。
売店でアコンカグア峰の絵葉書が売っていたため、その場で日本へ数通書いて売店の主人にポストへの投函を頼みます。主人から「温泉がある」という観光情報を聞き、その場所の方向を腕の向きから教わって行ってみます。
旅の醍醐味は「何も調べておかない」ということなのだと実感します。廃線となった線路が突然現れます。
南米大陸最高峰の麓に、線路が敷かれていることなど想像していなかったので驚かされます。
カメラひとつ持ってロッジを出てしまったため、温泉と聞いて一旦戻ってタオルぐらい持ってくれば良かったかなという後悔と、この国での温泉の入り方が分かるかなという心配をしながら歩き続けます。これからシャワーすら浴びないキャンプ生活が続くため、温泉は魅力的です。しかし、その後悔と心配は無用であることがすぐに分かります。その温泉施設を見て、想像と現実が違い過ぎ、驚きを通り越して唖然とします。旅先での驚きを期待する場合、「何も調べておかない」ことを確信した瞬間です。その異様な光景から、近づくと危険な雰囲気すら感じさせ、人工物の建物が明らかに何らかの自然作用によって浸食されたことが想像できます。
唖然とさせてくれた光景にときめきながら、映画のセットと思わせるような世界にめぐり会え、映画『インディ・ジョーンズ』の主人公、考古学者気分で建物内を探険します。
温泉と教わっていましたが、地下から湧いているのは冷泉でした。いい湯加減の温泉が湧いていたとしても、そのただならぬ雰囲気から入浴したくなる気持ちは湧いてきません。湧く音が響く様子を聞きながら、この不思議な空間にただただ驚くだけです。線路が敷かれ、そして廃線となった歴史背景、温泉施設が廃墟となった理由などを事前に調べておくと、この場での見方が変わります。何も調べておかないことで驚く「旅の醍醐味」と、知識を予め持つことで納得できる「旅の深さ」の両立の難しさが悩ましく感じられます。
遠くに建物が見えたため、一面に咲いた花畑の小道を登ります。
先に進むにつれ、眺望が良くなり、峰々の名前は分かりませんが、荒涼とした標高3,000m~5,000m級峰が見渡せます。人は誰もいませんが、快晴というお天気も手伝って、その気持ちのいい眺望から、ここが素敵な観光地であることを実感します。
その石造りの建物は小さな教会でした。
先週のクリスマスでは地元の方々が集まったのでしょうか、その余韻が空間に残っています。ロッジに戻っても、夕食まで窮屈な二段ベットの上で過ごすだけです。せっかくの機会なので、誰もいない教会の世界に気持ちを委ねて過ごすことにします。登山を目的に海外へ向かいますが、この一時間足らずの小さな驚きの連続から、カメラひとつザックに入れて、長距離バスのような移動手段で、バックパッカーとして世界中を旅するのも魅力的、と教会の中で自由に思いを巡らします。