南緯32度、日本との時差12時間。日本列島の裏側、地球儀をぐるりと半周回した場所、世界最長8,000kmアンデス山脈の旅へ。日本の地平線の下、南半球の星空(宇宙)を眺めながら、南米大陸最高峰アコンカグア峰(6,960m)山頂を目指します。
南米大陸最高峰・アコンカグア峰(6,960m)登山 vol.1は こちら
気象情報などありません。観天望気で今後の天気を予想します。気象予報士ではありませんが、明らかに下り坂を告げる空模様です。
ピエドラ・ヌメラダ(3,354m)を出発し、今晩はラ・オーヤ(4,200m)で1泊。明日、エル・プロモ峰(5,430m)の山頂にタッチした後、夕方にはピエドラ・ヌメラダまで戻る計画です。
単調な登山道をひたすら登り続けます。時間が経ち標高が高くなるにつれ、青空の青の割合が少なくなり雲の白が上空を占め始めます。
流れてゆく雲の消え間からの陽が、変化の乏しい風景を演出します。強風でその模様が流れている光景、優雅なBGMを聴きながら眺めたら美しい風景と感じる一方で、登山中の身としては不気味な風景に見えてしまいます。
ラ・オーヤに到着する頃には雲量10、予想通り曇天となりました。エル・プロモ峰登山の目的は、アコンカグア峰への高所順応が目的なので、予備日は設定していません。山頂に向かうチャンスは一度のみ、延期はありません。キャンプ地付近の雪斜面でアイゼンを装着し、メンバー同士ザイルを組み合って明日本番の確認を行います。
明け方、暗い時間帯からの出発。ザイルで結び合っているため、メンバー同士ペースを合わせて進みます。急斜面なため、すぐ前のメンバーのブーツをヘッドランプの灯りで照らしながら黙々と登り続けます。
2グループに分かれての登山。振り返ると、後続のメンバーも順調に登ってきます。標高が高くなるにつれ想像以上の強風に。メンバー同士、大声で話さないと聞こえません。下山してくる別の隊のメンバーが通り過ぎる際、私の左腕を数回叩きながら、何かを伝えようとしていますが、風が強くて何を話しているかよく聞こえません。
そのリアクションから、「厳しい条件だけど頑張れ」と思われる激励メッセージのようです。その直後、強風の中で短い叫び声が聞こえたため、振り返ると、その彼が数mではありますが滑落していました。高所順応を目的とした登山なので、気を緩めてしまいがちですが、標高5,000mを超える場所であることを思い出して気持ちを集中させます。
「夏山なのに何で…」、海外登山経験豊富なリーダーが話しかけてきます。冬山を想定したフル装備ですが、風の強さから体感温度は相当低く感じます。強風を避けられる岩壁のくぼみで休憩をしている時、リーダーが下山を判断しました。山頂を目指していた以上、撤退は残念な結果です。しかし、この気象条件ではメンバー全員の登頂は無理と薄々感じていたため、その決定を聞いた時、「了解っ!」という感じでした。標高5,000mを超えても高所の影響はなく、平地と変わらず行動できた結果に納得の撤退です。
下山が決まれば、逃げ足は速く…。
気がつけば、湿地帯で再び登山靴を濡らし…。
池の畔、キャンプ地に無事到着。ちょうど、おやつの時間帯でした。