世界で初めて世界五大陸最高峰に登頂した冒険家・植村直己さんの活躍に、どきどき、はらはら、わくわくしていた小学生。通学路の世界しか知らない子どもにとって、スーパーヒーローです。その冒険家の遭難を知った時、「世界五大陸最高峰に登ってみよう」ぼわっと頭の中でそんな思いが広がりました。「憧れ」から「挑戦」に変わった瞬間、高校1年生の時でした。
さぁ、帰国です。「徒歩旅」の次は、再び「陸路国境越え」と「車の旅」。おしゃれな観光旅行ではないため、荷物は40リットルの中型ザックと小型ザックだけ。一番の大荷物はカメラ機材。カメラ2台、望遠レンズ、広角レンズ、三脚、レンズフード、レリーズ、遮光板、ブロアーブラシ、フィルム。星景写真撮影用の高感度フィルムをX線から保護する、セーフティバックは固くとてもかさばります。カメラ機材が入った小型ザックは、膝の上。シュラフとウェアしか入っていない中型ザックを、ワゴンの荷台に放り込んで出発です。
現地のドライバーに運転を任せ、猛スピードで流れてゆく景色をぼんやり眺めます。膝の上に置いたフィルムカメラも、キャップをしたままです。行きは「どんな登山になるのかな」と想像しながらの車の旅、帰りは「こんな登山だったな」の振り返りの車の旅。
ドライバーが動物の姿を見つけると、休憩を兼ねて車を停めてくれます。エンジンを切ると、風もなく、音のない世界だったことに驚きます。動物たちがだけが、ゆっくり動いています。見える人工物は道路だけ。野生動物の世界に、人間がひとり立っていることを実感します。
日本人にとって非日常的なこの雰囲気を楽しんでいる大切さの分かるドライバーは、ベテランらしく、聞けばひと言で質問に答えてくれますが、動物を静かに眺めている私を気が済むまで、そっと見守ってくれます。
素晴らしいのは動物だけでなく、行く先々、きれいな花が旅をさらに楽しませてくれます。動物、植物、地質、民俗、地理、気象、天体…、登山を目的にアフリカ大陸に来ましたが、文化や学術について様々な経験をさせてくれます。登山者である以上、登頂が最も明確な目的あり目標ですが、ピークハンターではないため、登山後もアフリカを旅として十分楽しみ尽くします。