世界で初めて世界五大陸最高峰に登頂した冒険家・植村直己さんの活躍に、どきどき、はらはら、わくわくしていた小学生。通学路の世界しか知らない子どもにとって、スーパーヒーローです。その冒険家の遭難を知った時、「世界五大陸最高峰に登ってみよう」ぼわっと頭の中でそんな思いが広がりました。「憧れ」から「挑戦」に変わった瞬間、高校1年生の時でした。
「飛行機の旅」と「車の旅」を終え、ようやく「歩きの旅」が始まります。キリマンジャロ峰に登るルートは、いくつもあります。富士登山に例えると吉田ルートでしょうか、今回はメジャーなマラングルートを登ります。登山口である標高1,879mマラングゲートを、気負うことなく出発します。
テント場所は標高が1,000mずつ高くなります。高所にゆっくり順応させる暇もなく、一気に登り続ける感じです。標高が1,000m上がると、気温は6度下がります。気候区分が、熱帯→乾燥帯→温帯→冷帯→寒帯のように連日変化してゆくような登山なので、出発は夏山装備、山頂は冬山装備です。
熱帯ジャングルの世界を思わせる登山口を出発したかと思えば、山頂は氷河が残る極地の風景が広がるため、この風景の変化もキリマンジャロ峰登山の魅力のひとつです。しっかり森を観察しながら歩いていると、かわいい動物たちにも会えます。
覆い被さる植物を見上げながら深呼吸し、耳を澄ませながら隠れている動物をきょろきょろ探し、立ち止まって足下の摩訶不思議な昆虫を見つめながら熱帯の自然を満喫します。レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』気分です。突然、西日が眩しい広場に出ました。初日の野営地、標高2,720mマンダラハットに到着です。
さすが人気の高いキリマンジャロ峰、世界中から大勢の老若男女が集まります。
キリマンジャロ峰登山は、アフリカ大陸最高峰でありながら、特別な体力、専門の登山技術は必要ありません。アフリカに来た記念に、キリマンジャロ峰にも立ち寄ってみた風の方々の多いこと。同世代の方に声をかけると、ごく自然とひとり加わり、またひとり増え、4人での国際交流の始まりです。全員母国語が異なるため、会話ひとつひとつがゲームのようで笑いが絶えません。お互いに記念撮影を済ませて別れます。一期一会の旅です。
遊歩道のような樹林帯を数時間しか歩いていないため、特に疲れてはいませんが、水が豊富な場所なので、水をかぶって汗を流します。フカフカな草の上に設営された心地いいテントの中で、ゆっくり過ごします。
日が暮れるまで時間もあるため、散歩を楽しみます。どこを眺めても、何を見ても、幸せな気持ちにさせてくれます。アフリカまで来て良かったと、改めて思いました。