アイスフォールを半分過ぎた頃から、ガスに包まれました。新雪のおかげで、真っ白なきれいな世界ですが、リスクが高まった空間です。危険な箇所は、安全確保のため1名づつ進みます。
オーバーハングの壁が1箇所あり、登山者による渋滞が起きます。ひとりひとり順番に壁へ取り付く様子を下から眺めます。スキルと体力、センスのお披露目になるので、恥ずかしい登り方は出来ません。
また、個人だけの問題ではなく、少しでも手こずって時間をロスさせてしまうと、他の登山隊にまで迷惑をかけてしまうため、このような場所は無理してでも急ぎます。
スピードが最優先されるため、登り切った時の苦しいこと、苦しいこと。鏡があれば、この時の表情を見ておきたい気分です。
C3まで残り50m、傾斜が緩くなりました。しかし、高所の影響で登るスピードは、全く上がりません。ゆっくりとした動作ですが、呼吸だけがこれ以上早くはできないほど激しい状態です。
撮影機材として、デジタル一眼レフカメラ、予備用コンパクトデジタルカメラ2台の他に、ハーネスにはカラビナでデジタルハイビジョンムービーカメラも常にセットしてあります。動画として残したいシーンや音声を残したい状況では、このムービーカメラを使います。
これ以上ない程、苦しい状況の本人を、客観的に眺めているドキュメンタリー映画のディレクター役の自分もいて、この呼吸の荒さは記録に残すよう、冷酷にもその苦しんでいる本人に指示します。
出演者の意見より、撮影監督の命令が絶対です。C3までの残り50m、安全であることを十分確認した上で、登っている様子を自撮りで、ずっと動画撮影を行います。遠くからこの姿を眺めたら、「余裕のある奴」と見えるでしょうが、実はその逆、「余裕の全くない奴」の状態です。
予定通り暗くなる前にC3標高6,750m到着。夕暮れ時で天候もあまり良くない中、服装は薄いインナーとフリースのみ。2枚とも前面のファスナーは全開、お守りであるビーコンも剥き出しです。
あまりの暑さでフリースの腕までまくっているほど。C3に到着している他の隊員の防寒重装備から、改めて激しい運動量であることが分かります。C3到着と同時に、ブーツを履いたまま頭からテントに倒れ込みました。
C3での睡眠から、酸素マスクを装着して眠ります。シュラフに包まれながら、登り切れた満足感にも包まれました。マラソンのレースならばゴールした瞬間の感情でしょうが、登山のゴールはBC。まだまだ、まだまだ先の先です。
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