横浜南部・金沢八景の海。その一角に残された、横浜最後の自然海岸をレポートします。
横浜市南部・金沢の海。古くは鎌倉幕府の港として栄えました。江戸〜昭和期は景勝地「金沢八景」として賑わい、伊藤博文 川合玉堂 直木三十五など多くの貴紳・文人が居を構えたところです。
かつての東京湾は干潟と入江、遠浅な浜が続く美しい海でした。歌川広重画『金沢八景~野島夕照』が、往時の様子を偲ばせます。黒船艦隊のペリー提督も、金沢の風景を「絵のように美しい…、心地よき眺め」と気に入り、現在の八景島沖の海域を艦隊の錨泊地“アメリカン・アンカレッジ”と名付けました(「ペリー提督日本遠征記」)。
その海の一角に野島海岸と呼ばれる浜があります。ここは横浜市に残された最後の自然海岸。500mにわたり干潟や砂浜、ゴロタ浜が続きます。
遠浅な海ではアマモ、ホンダワラ、ワカメなどの海藻が揺らいでいました。ここは魚やイカたちの産卵場。海の生きものの“ゆりかご”として、海の生物多様性・生態系を支えています。
スズガモ オオバン キンクロハジロの群れ。波がなく、餌が豊富な干潟の海は渡り鳥の安息地。遠くシベリアから飛来し、野島の海で越冬します。
干潮時の干潟。日光が降り注ぎ、栄養豊富な干潟は、プランクトン アサリ カニなど小さな生きものの楽園。週末は潮干狩りで賑わいます。子どもたちの生きもの観察にはもってこいの場所。
砂に潜るカニ。まるで忍者。
長い手で餌をついばむホンヤドカリ。愛くるしい仕草は見ていて飽きません。
アサリの稚貝(下)とムシロガイ(上)。巻貝は砂底の有機物をなめ、アサリは海水を吸い込みます。アサリ1匹が濾過する水は1日約20リットルに及ぶとも。干潟の生きものたちを眺めていると、彼らの活動により、干潟は海の浄化システムとして機能。海の環境が保たれていることを実感します。
アメリカン・アンカレッジ付近の眺め(左端は八景島/対岸は千葉県君津市の工業地帯)。ペリー来航から160余年。東京湾は干潟の88%を失いました。人間に例えるなら、肺や腎臓・肝機能の多くを失ったと言えるでしょう。経済成長と引き換えに、海辺はコンクリートの垂直護岸となり、そのほとんどが立入禁止。我々が直接海に触れ、自然と親しめる所は、もうごく僅かしかありません。
都会の片隅に残された最後の自然海岸。そこに生きる命の輝きを見ていると、いまある自然をいかに守り、次世代へ受け継ぐか、強く考えさせられました。次回は野島海岸で行われたビーチクリーンの様子をレポートします。