島根県石見地方に、四季を追いかけた村があります。今回は春の訪れと里の暮らしをお伝えします。
島根県浜田市弥栄町(旧弥栄村)。弥畝山(やうねやま・961m)を最高峰に、中国山地から日本海にかけての高原に位置する緑豊かな山里。ブナ原生林が磨いた豊かな水どころ・米どころとして知られています。
4月上旬。桜開花の報せに弥栄町を訪れました。石見地方は「弁当忘れても傘忘れるな」と言われるほど雨の多い土地。春雨に霞む眺めは、まるで山陰の隠れ里。
霧の谷をゆく渡り鳥。越冬を終え、繁殖地のシベリアやアラスカを目指すのでしょうか。
霧の桜を撮りに、中国山地に佇むダム湖・みやび湖へ。
湖畔が桜に染まるさまは圧巻。知る人ぞ知る桜の名所です。
桜の開花は、田植えシーズンの到来。農家の方々にとっては忙しい一年の始まり。
風の音、水の音、カエルたちの歌声。里のあちらこちらから春のリズムが聞こえて来ます。
田畑が目覚め、深呼吸したかのように、山里に土の香りが広がるのでした。
晴れた週末、野坂地区を訪れました。野坂は浜田市中心部と県道で繋がる弥栄町の玄関口。朝取り野菜の直売所が人気です。
野坂地区で農業を営む串崎文平さん・哲代さんご夫妻。安心・安全なコメ・野菜づくりとともに、農地の電柱や電線を極力なくすなど、美しい景観づくりにも力を注いでおられます。串崎さんとの出会いは一昨年の秋。宮内庁献上米の稲刈りを撮影したのがご縁。以来、島根を訪れる度に「寄っていきなさい」と声を掛けてくださり、今回も地元のお花見に招いてくださいました。
串崎さんの農地には桜の園が広がります。この土地を守り、美しく次世代に繋げたいという想いを胸に、ご夫婦で桜の苗木を植えてきたのだそう。今では桜の名所となり、この日も養護学校の生徒さん達が、のんびりとお弁当を広げていました。
友人親戚が集い、山海の幸を持ち寄ってのお花見会。青空のした、よもやま話に花が咲きます。
石見地方の郷土料理・角寿司をいただきました。角寿司はごぼう・干し椎茸・干瓢・干しエビなどを煮付けて寿司飯に挟み、角型に押し固めたもの。主にお祭りの時に振るまわれるのだそう。
若草に寝転び空を仰げば、気分は天国か桃源郷。
夫婦で植えた苗木が育ち、こうして満開の花を咲かせるまでに、どれだけの歳月とご苦労があったのか。一介の旅人には想像もできません。美しく手入れされた田畑、春の宴と笑顔を眺めながら、大地に生きる人間の力強さ、自然と調和した暮らしの豊かさを思うのでした。
弥栄町へは、石見地方の玄関口である萩・石見空港から車で45分ほど。日本の原風景を観に、ふらっと訪れてはいかがでしょうか。
どこか懐かしい、こころの故郷がきっと広がります。
〈参考リンク〉
秘境奥島根 (http://okushimane.jp)
浜田市観光協会 (http://www.kankou-hamada.org)
今回使ったアイテム
バックパック:eclipse pro 27、ジャケット:beaufort 3L jkt (unisex)、フリース:journey parka