世界で3番目に大きな島、ボルネオ島。その熱帯雨林には、島固有の多様な生物が暮らしています。「アジアの肺」とも呼ばれる貴重な森の現在(いま)を見に、カメラ片手に訪れました。
ボルネオ島の玄関口・コタキナバル国際空港。日本からは直行便で6時間ほど。観光ブームと経済成長を背景に、マレーシアの首都クアラルンプールをはじめ、ソウル 香港 シンガポールなど、アジアの主要都市と結ばれています。
国内線で島を横断。マレーシア・サバ州第二の都市であるサンダカンへ。眼下は鬱蒼としたジャングルが広がり、熱帯に来たことを実感。ボルネオ訪問は長年の夢だったこともあり、フライト中ずっと景色を眺めていました。
キナバタンガン自然保護区の朝。朝霧が樹冠を流れる様は、まるで、目覚めた密林が深呼吸するかのよう。新鮮な酸素を胸いっぱいに吸い込みます。
日中は炎天下となるため、涼しいうちに川を遡上。運が良ければ野生のオランウータンやボルネオゾウに出会えるかもしれません。
川は大蛇のように曲がりくねり、密林の奥深くへとつづきます。今にでもワニや猛獣が飛び出しそうな雰囲気に、子どもの頃に大好きだった映画『インディー・ジョーンズ』を思い出しました。未知への旅は、いくつになっても胸が昂まります。
テングザルの群れ。ボルネオ島の固有種で、水辺の森に生息します。その名の通り天狗のような鼻を持ち、大きな鼻を持つオスほど、メスにモテると言われています。
樹上で休むオランウータン。マレー語で「森の人」と呼ばれ、現存する人間に最も近いと言われる生物です。ボルネオ島とスマトラ島の熱帯林に暮らしていますが、近年、個体数が激減。WWFのレッドリストでは近絶滅種に指定されています。
その原因は、アブラヤシ農園の乱開発による熱帯雨林の減少です。生息地がプランテーションで分断されてしまい、食べ物や繁殖の機会を奪われてしまったのです。
アブラヤシの実から取れるパーム油は、最も効率的かつ安価に製造可能な植物油。固形と液体両方の性質を持つため、ポテトチップスの揚げ油やチョコレート、マーガリン、石鹸、洗剤、歯磨き粉など、様々な製品に使用されています。チョコレートの滑らかな口どけは、ちょうど人の体温で溶けるパーム油の性質を利用したものです。
1970年代、ボルネオでアブラヤシ栽培が始まると急速に栽培面積が増加。マレーシアの基幹産業として地元の人々の暮らしを支える一方、ボルネオ島の熱帯雨林の約40%が失われてしまいました。オランウータンの生息地にいたっては、西暦2000年の時点で80%が消失したと推定されています。
空から見た熱帯雨林(左下)とアブラヤシ農園(右上)の境界線。どちらの環境が、微生物や昆虫、ボルネオゾウにいたるまで、多様な生物を育むかは一目瞭然です。
近年、ボルネオの環境破壊が取り沙汰されるようになり、熱帯林の保全と持続可能なパーム油生産を維持するための活動が、企業、生産者、各種団体の協働で取り組まれるようになりました。
そのひとつが、森と森とを繋ぐ緑の回廊プロジェクト。川を進むと吊り橋が現れました。オランウータンやサルが対岸へと渡れるよう、日本の企業が設置。大阪の消防署が使っていた消火ホースを再利用したものです。
こちらはアブラヤシ農園に作られた緑の回廊。ボルネオゾウ達が安心して移動できるよう、水路が森へと続いています。
こうした保全活動により、ボルネオの希少動物の個体数は徐々に回復の兆しを見せています。しかし我々消費者が、いま地球で何が起きているかに関心を持ち、意識して生活・行動しなければ、人と自然の共生を維持することは極めて困難なことでしょう。
アブラヤシ農園に現れた野生のボルネオゾウ。その姿は、私たち人間の在り方を、無言に、強く問いかけます。
ボルネオへの旅は、あらためて、地球と人間の未来を考える、大きなきっかけを与えてくれました。詳細はFRaU 1月号 SDGs特集で紹介されています。ぜひお手にとってみてください。