「関東ふれあいの道」という長距離自然歩道があります。一都六県の自然・文化・歴史を巡る総延長 1800km、160のルートから、今回は「三浦・岩礁のみち」を紹介します。
海辺の旅もいよいよ終盤。毘沙門海岸から盗人狩(ヌスットガリ)海岸へ。
飛び石歩きのセクション。上げ潮になり、岩盤が水没。沖の岩が防波堤の役目をしているものの、波浪時は通行不可となる箇所です。
平成30年台風24号の爪痕。崖が大きくえぐられていました。水際からの距離や崖の高さからから察するに、6〜7mの大波が押し寄せていたのでしょう。
毘沙門湾。漁港が佇む静かな入江。盗人狩海岸へは500メートルほど道路を歩きます。
毘沙門漁港から盗人狩海岸にエントリー。潮溜まりが網目のように広がる独特の景観。潮溜まりにはカニや小魚がいました。こどもの生き物観察や魚採りにはもってこいの場所。
黒々と口をひらく海蝕洞。「岩礁のみち」には多数の洞窟が点在。縄文・弥生人が暮らした痕跡も残されています。また、太平洋戦争中は東京の防衛拠点として洞窟陣地や砲台、特攻ボートの出撃基地が作られました。その多くは忘れ去られたように放置され、荒れていたのが心に残ります。そう遠くはないむかし、こうして気ままに海辺を歩けぬ時代があったことを、我々は忘れてはなりません。
周辺は関東有数の磯釣り場。釣り人の間では「ヌスットガリ」として知られ、メジナやクロダイ、回遊魚を狙って太公望が訪れます。外洋に面して水深が深いため、思わぬ大物に出くわすことも。
潮が満ちてきました。一見穏やかな海も、うねりの波長が合うことで、時折大きな波が押し寄せます。ライフジャケットなしでの磯歩きは、ストックやピッケルを持たずに雪の斜面を歩くようなもの。慎重に通過します。
かながわの景勝・50選の碑。周囲の岩場は、侵食から取り残された黒く硬い凝灰岩の地層が、ナイフエッジのように並んでいます。
盗人狩海岸の核心部。入江にエメラルドグリーンの海が入り込み、ひとの立ち入りを拒む聖域のような雰囲気。ふと、アメリカ・アリゾナ州のアンテロープキャニオンを思い出しました。
盗人狩という名は、むかし盗賊がこの海岸に追い詰められ、たやすく捕まったという伝承が由来。いったい盗賊は何を盗んだのか?その後、盗人はどうなったのか…?由来の真偽はともかく、岩が纏う神秘の空気は、あれこれ想像を掻き立てます。ねじ曲がる地層や切り立つ崖を、時を忘れて見上げたのでした。
日没とともに宮川漁港に到着。無事「岩礁のみち」を踏破。
バスで三崎港へ移動。三崎は言わずと知れたマグロ水揚げ港。煌々と灯のつく魚河岸(写真左奥)に大型漁船が停泊しています。
遠洋漁業で栄え、日本経済を支えた昭和の面影を残す街並み。幼馴染がいたので、子どもの頃によく訪れました。活気ある港町の情景をいまもよく覚えています。
三崎の名店・居酒屋「音由」へ。ご主人は元マグロ漁船乗組員。この夜も常連さんが入れ替わり立ち代わりカウンターに座り、粋に一杯ひっかけては出てゆきます。
金目鯛の煮付け。漁師町ならではの甘く濃厚な味つけに、つい酒がすすみます。気がつけば終電間近。ほろ酔い気分で帰路についたのでした。
「三浦・岩礁のみち」へは鉄道とバスを利用し、都心から2時間ほどでアクセス可。表情豊かな海辺歩きを楽しめます。ただし、満潮時や波が高い時は大きなリスクに晒されます。危険を感じたら迷わず引き返しましょう。準備とリサーチを十分に、素晴らしい休日を!