私は日本登山医学会が認定する「国際認定山岳医(Diploma in Mountain Medicine、以下DiMM」を2015年に取得しました。以後、「山の医者」として、「日本が誇る豊富な山岳資源を医療の面から支えたい」という同じ志を持つ者たちと共に、さまざまな活動に取り組んでいます。
DiMMはアルプスを擁するヨーロッパで生まれたものですが、今日では世界中に同じコースを受講したDiMM取得者たちがいます。ヨーロッパアルプスではすでにDiMM取得者たちが文字通りの「山の医者」として多数活躍していますが、日本国内での活動はまだ限定的です。
DiMM取得者は、診療所の外、山の中で医療を提供できるスキルを持った人たちです。現在、行政や法律面で日本国内での、そうした活動は難しいこともあり、今私たちにできる小さなことから活動を開始しています。
そのひとつが、「山岳医療パトロール」です。これは、南アルプス甲斐駒ヶ岳の黒戸尾根にて、2017年の夏から開始した活動です。
DiMMを取得した医師・看護師を中心としたボランティアメンバーが黒戸尾根を歩き、登山者への声かけを行ったり、黒戸尾根7合目にある七丈小屋で、高山病や熱中症といった山で起きる疾病のミニレクチャーなどを行いました。
北アルプスと比べて山岳診療所の少ない南アルプス地域において、こうした地道な活動が実を結び、傷病者の発生を未然に防ぐことにつながると考えています。
昨年はコロナ禍でパトロール活動や山小屋での活動は中止となってしまいましたが、登山口で主に感染予防に関する声かけなどを行わせていただきました。また、七丈小屋のご主人と話し合いを重ね、小屋の感染対策マニュアルの作成をお手伝いさせてもらいました。
今年も7月から10月の週末・祝日に活動を行います。今年は甲斐駒ヶ岳だけでなく、八ヶ岳編笠山の観音平登山口でも活動する予定です。
また、私個人の活動として、以前の記事では海外登山ツアーの帯同医のことをご紹介しました。そのほかにも、国内では「東北の高校生の富士登山」というビッグイベントに医療班医師として関わっています。
「東北の高校生の富士登山」は、世界ではじめて女性としてエベレスト登頂に成功した田部井淳子さんが発案された一大企画です。「2011年の東日本大震災で被災した東北の高校生たちのべ1,000名を富士山に登らせよう!」という目標のもと、2012年から毎年70〜100名ずつの高校生たちを富士山登頂に導いています。
昨年2020年はコロナ禍で中止になってしまいましたが、今年は感染対策を十分に行った上で開催が決まっています。高校生たちの、一夏の、そして一生の思い出となる素晴らしいイベントです。今年も「山の医者」として精一杯お手伝いさせていただきます。
日本の山が全ての人にとってもっと安心できる場所になれば、日本の山登りはもっと豊かになることでしょう。そうした登山文化の明るい未来に、医療という立場から少しでも貢献できればこんなに嬉しいことはありません。今後も、自身の登山も楽しみつつ、山岳医療の発展について考えていきたいと思います。