子供と一緒に日本第二の高峰へ〜北岳ファミリー登山の記録〜【アンバサダー 稲田千秋】

例年にない酷暑となった今年の夏は、山梨県北杜市にある標高700mの我が家も連日猛暑日に襲われていました。そんななか、久しぶりにテント泊でアルプスに入りたくなった私は、一歳三ヶ月になる子供を連れて、高山へ避暑登山に出かけることにしました!

北岳は標高3193m、富士山に次ぐ日本第二の高峰です。はじめて北岳に登ったのは、登山をはじめたばかりだった2007年でした。以後、厳冬期やバリエーションルート、両親を連れての家族登山など、様々な季節やスタイルで何度も登っている馴染み深い山です。

一番最近では、2018年に「クライム&ラン」というスタイルで夫とともに登りました。最低限のクライミング道具だけをトレランザックに詰めて、北岳バットレス第四尾根を登り、白峰三山を縦走ランするというスタイルで、10時間59分で全行程を走破しました。

今回は一歳の子供を担いでの家族登山で、かつ山小屋ではなくテント泊がしたかったので、登山道の険しさやテント場の気持ちよさ、予約の要不要などの色々な条件を考え合わせ、北岳に行くことにしました。

登山初日の未明、寝ている子供をベッドから抱き上げて、パジャマのままチャイルドシートに乗せて出発です!車内で朝ごはんをあげたりしながら芦安の駐車場に到着し、急いで着替えとおむつがえをすませて、慌ただしく広河原行きの始発バスに乗りました。

標高1600mほどの広河原ですでに涼しく快適!下界のうだるような暑さが嘘のようです。

今回は、三人一泊分のテント泊装備を全てパッキングしたUltimate 60(頭が伸びるので80Lくらいになっていたと思いますが)を私が背負い、夫が背負子に子供を背負って登りました。まずは肩の小屋を目指します。

北岳では、白根御池小屋をベースとして山岳医療ボランティアの方々がパトロール活動を実施しています。私たちと同じ、山岳医療に関わるお仲間です。この日は、山岳医師、看護師の方々がちょうど活動を終えて下山されるところで、御池小屋でご挨拶出来ました。

登るにつれ標高は上がるものの、ほぼ無風の登山日和で、晴れて日差しが強くなってくるとやはり暑く、荷物の重みもあって汗だくになりました。バットレス第四尾根が青空に映えくっきりと見えています。

8月の頭で、すでにお花畑の最盛期は過ぎていたものの、まだまだ沢山の可愛らしい高原植物たちが出迎えてくれました。

道中、背負子の上で大人しく寝てくれていたりする息子ですが、ずっと背負子の上で同じ姿勢では身体への負担がありますので、1時間おきくらいで下ろして解放してあげる必要があります。高山病予防という観点からも、ゆっくり登ることは重要です。多めに休憩をとりながら、無理せず登っていきました。

それでもお昼前には肩の小屋に到着しました。さすがにここまでくると肌寒いです。すぐに防寒着を着込んで、居心地の良さそうなサイトに陣取り、テントをたてました。

アメリカ、ジョシュアツリー40日間のキャンプでも使用したエアライズDXフライを今回も持参しました。山岳用軽量テントと比べると少し重めではありますが、小さい子供のいるテント生活では炊事など様々な点においてとても快適です。

私たち大人もちょっと腹ごしらえをして、支度を整え、空身でピークハントに出発しました。

山頂ではガスってしまい展望には恵まれませんでしたが、コーヒーを飲んでまったりし、子供も標高3000m超えでの岩登りをエンジョイしていました。

下山後は日が暮れるまで、小屋の周辺でゆったりと過ごし、他の登山者とお話ししながら贅沢な時間を満喫しました。

日が暮れるちょっと前には、一時雲がさっと晴れ、ダイナミックな山岳景観を楽しむことが出来ました。登山者たちの歓声があがり、みなカメラやスマホを手に景色に見入っていました。

我らが甲斐駒ヶ岳もほんの一瞬だけ姿を見せてくれました。雲ひとつない青空もいいですが、ダイナミックな雲の動きは山岳景観をより迫力あるものにしてくれますね。

子供も終始、高山病症状などもなく、楽しそうでした。何より、子供と豊かな時間を過ごせた私たち大人はとても幸せでした。信頼できる装備とともに、色々なフィールドに出て、安全かつアクティブに、様々な経験を積み重ねていきたいと思います。

稲田 千秋

稲田 千秋(いなだ・ちあき)形成外科医、クライマー。学生時代から登山、クライミングに熱中し、季節やジャンルを問わず様々なスタイルでフィールドアクティビティに興じる。現在はフリーランスで世界中を旅しながらクライミングを楽しむ傍ら、国際認定山岳医として、日本の山岳医療発展のため活動する。2016年 Yosemite国立公園 El Capitan "The Nose"完登。2019年 ペルーアンデス Alpamayo "French Direct"登攀など。

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