スコットランドの山登り 〜Scrambling(スクランブリング)のススメ〜【アンバサダー 稲田千秋】

カリマー発祥の地である英国には、登りごたえがあって、素晴らしい景色が楽しめる贅沢な山がたくさんあります。標高はどれも1500m以下ですが、緯度が高いため気候の厳しさは日本の北アルプス級。岩場の鎖やハシゴも、日本と違いほとんどありません。登山者の実力に応じて、思い思いのラインを、自分たちの力だけで進むことができるのです。

私は大学時代、夫とともに登山をはじめました。その夫がいまイギリスに留学しているため、2019年は何度もこの地を訪れました。そしてともに山歩き、トレイルランニング、クライミングや、”スクランブリング”を楽しみました。

日本ではあまり聞き慣れないかも知れません。スクランブリングとは、やさしめの岩場をよじ登りながら頂上を目指したり縦走をしたりするアクティビティのことです。

Skye島の”Cuillin Hills Traverse”は、スコットランドでも特に人気のスクランブリング縦走ルートです。

レンタカーでGlasgowを出発し、300km以上の道のりを数日かけて北上します。イギリスといえば…パブ! 昼間はクライミングをして、夜は毎晩パブ飯とビールに舌鼓です。

縦走は海からはじまります。そしてひとたび稜線上に出ると、切り立った岩尾根から海をのぞむ大絶景! まるで空を飛んでいるかのような気分を味わうことが出来ます。

ルートを示すガイドブックはあるものの、ルート上に人工物は何もありません。ルートファインディングも重要です。

夜遅くに下山して、日付がかわるころに就寝。そしてまた次の日には、英国最高峰 Ben Nevisをスクランブリングで登りました。

スコットランドから海を渡り、アイルランドでも登山やロッククライミングを楽しみました。

北アイルランドのFairheadは、海岸沿いに玄武岩の断崖が続く一大クライミングエリアです。

落ちたときの安全確保のため、クラックと呼ばれる岩の割れ目に、およそ2〜3mおきに岩登り用のギアをセットしながら登ります。こうすることで、万一のときの墜落距離は6mくらいまでに抑えられます。

しかし”UKトラッド”と呼ばれる英国式のクライミングには厳しい倫理観があります。ギアを設置できる岩の割れ目がなくても、ドリルで穴を開けて人工物を埋め込むようなことはしません。つまり、場所によっては墜落距離が恐ろしく長くなってしまうリスクを受け入れる必要があるのです。

愉快なパブに美味しいビール、美しい丘や岩尾根、そして厳しくも洗練された登山・クライミング文化に触れ、英国という素敵な国を満喫した1年でした。

稲田 千秋

稲田 千秋(いなだ・ちあき)形成外科医、クライマー。学生時代から登山、クライミングに熱中し、季節やジャンルを問わず様々なスタイルでフィールドアクティビティに興じる。現在はフリーランスで世界中を旅しながらクライミングを楽しむ傍ら、国際認定山岳医として、日本の山岳医療発展のため活動する。2016年 Yosemite国立公園 El Capitan "The Nose"完登。2019年 ペルーアンデス Alpamayo "French Direct"登攀など。

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