自分らしく旅を愉しんでいる女性たちに、こだわりの持ち物を見せてもらおう!という連載。第2回目は、年に数回は海外撮影へ出かけ、プライベートでも旅好きという写真家、安彦幸枝さんの気になる旅支度を拝見。ライフワークとしてつづけているという“酒場を巡る旅”のお話も伺いました。
※この記事は、旅と暮らしをつなぐ雑誌『BiRD』で連載中の拡大版です
photo NOZOMI KATO
text BiRD
安彦幸枝さん(写真家)
ひとつのエリアをじっくり味わう旅
招き入れられたリビングには、サルデーニャ島の大きな地図、ミャンマーの山岳民族がきりとられた写真、各地の工芸品が丁寧に配置され、早くも旅の雰囲気。なかでもひときわ目立つのが、十字架のように交差した唐辛子と、何連にも繋がった唐辛子の飾りです。
「料理人の夫に誘われて、フランスとスペインにまたがるバスク地方に行ってきました。唐辛子はその旅から持ち帰ったものです。ピメント・エスペレットは香りの高いマイルドな辛さの唐辛子で、バスクではフランス側のみで使われます。十字架はバスクに古くより伝わるローブリューと呼ばれるもので、太陽・地・水・火を表しているとか。唐辛子がバスクの人びとにとって、どれほど重要な食材なのかが感じられます」
そんな安彦さんの旅はいつも、ひとつのエリアをじっくり回るスタイル。最近はもっぱら旦那さんと、生産者から食堂、酒場まで、食をテーマに世界を旅しているとか。
「ふたりとも、食べることとお酒をのむことが大好きなんです。スペインバスクでは美食の都として有名なサン・セバスチャンへ。朝は市場を歩き、ビスカヤ湾であがった新鮮な魚介や、毛のついたままの野鳥などを見て期待を膨らませ、夜はバルホッピングや星付きレストランを交互に楽しみました。面白いのが、スペイン圏では塩、レモン、オリーブオイルの文化が、フランス圏に入ったとたんにバターと生クリームに変わるんです。隣国だし、そもそも同じバスク圏なのに面白いですよね」
有名レストランを巡るだけでは、現地の食を本当の意味で理解するのは難しい。ひとつのエリアをじっくり旅する理由はそんなところにある。
「スペインバスクでは、常連さんたちのバルとの付き合い方が素敵でした。バル通りのお店を覗けば、どこも昼間から『チキテオ』と呼ばれる常連のおじさんたちが数人でテーブルを囲み、ボトルをあけてじっくり飲んでいます。それぞれ行きつけの店があり、そこに行けばたいてい誰か仲間がいる、といった具合に集まるようです」
「一方、ひとりカウンターでもくもくとやる人もちらほら。また、夜になると、地元の人と観光客でごった返します。そんなか、熱気にまみれて食べて飲むのが大好きです。店内はグラスの重なる音やいろいろな言語の笑い声に包まれていて、酔いがまわるとそれらが一体となり、心地よい響きに。カウンターの足もとには紙ナプキンがたくさん落ちているんですが、その量で、美味しい店かを判断すると、地元の人が教えてくれました。確かに美味しかった店ほど、たくさん落ちていたんです」
そんな旅は日本へ帰ってからもつづくという。
「いつもふたりで持ちきれないほどの食材を買って帰るのですが、それを使い、現地の料理を再現したホームパーティを開くのが定番です。この間のシチリア旅行などは買い込みすぎて、『シチリア会』を4回やっても食材が余ったほど(笑)」
旅先に持って行く、小さな贈り物
街歩き用の軽めなリュック、食べ歩きの気分を高める本、フィルムのコンパクトカメラ、“酒場メモ”用のノート、星つきレストラン用のワンピース……。食べ歩き旅の持ち物には、もうひとつ欠かせない物がある。招き猫だ。
「旅先で誰かに助けてもらったり、お世話になったときのお礼用に、和の柄のてぬぐいや、この小さな招き猫を持参しています。バスクの旅では、農場見学に行ったバスク豚の生産者がとてもよくしてくださったのでプレゼントしたところ、大変喜んでくれました。そんなやりとりも、旅の良い思い出のひとつになってくれます」
ひとつのテーマに沿って、自分なりの視点で国を紐解いていく。そんな安彦さんの旅計画は、この先も“食べたい”ところで溢れている。
「近いうちに、イタリア南部のプーリア州と、フランス領のコルシカ島に行きたいです。コルシカ島はサルデーニャ島のすぐ北ですがフランス領なので、また違った地中海の味覚が潜んでいるのでは、と今から期待が膨らみます」
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旅の持ち物
フィルム/コダックの35ミリフィルムを数本。
カメラ/プライベートの旅には三脚は持って行かない派。“酒場メモ”の撮影に選んだのはコンタックスのT2のコンパクトフィルムカメラ。
本『食べ物さん、ありがとう』/待ち時間や苦手な飛行機に乗っている間に読むのは、きまって気分を上げてくれる食の本。今回の旅には、栄養素や食べ合わせ法など日本人向けの栄養学を、先生と生徒による対話形式で易しく学べることができる名作を持参。
“酒場メモ”/食べ歩きを記録するための小ぶりなノート。訪れたお店のメニューや感想を書いたり、ショップカードを貼ったり。
ワンピース/星つきレストランへ行く時用に、きちんとしたタイプのものを1着。
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今回のおすすめアイテム
AR 18
[ エーアール 18 ]
軽量さにこだわりつつも、収納性やコンプレッションによる安定性、ヒップベルトやハーネスによるフィット感を高めた仕上がり。背面には、発汗性にすぐれたスーパークールメッシュを採用し、長時間のアクティビティでも快適に。
ポイント- 背面には発汗性にすぐれたスーパークールメッシュを採用
- 高い安定性を確保するヒップベルト
- サブバッグとしても使える軽量タイプ
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安彦幸枝
写真家。1973年東京都生まれ。写真家 泊昭雄氏に師事。2015年秋に、猫の写真集を発売予定。
www.abicosta.com