極地バイクパッキングレースの旅「Susitna100」 vol.1【アンバサダー 一瀬圭介】

「宇宙飛行士になりたい」。

そう強く思ったのは30年近く前。科学雑誌に掲載されていたスペースシャトルの船外活動をする若田光一さんの姿に惹かれ、その記事を食い入るように見ながらココロが熱くなったことを鮮明に覚えています。

それから時は経ち、早いもので21世紀も20年が経過。未だその職には就いてはいませんが、将来の “夢” を聞かれれば口に出すのはやはり “宇宙飛行士” でしょうか。それが叶う確率はほぼゼロに等しいと思いますが、何をするにしても未知との境界線を探求している自分がいることは今でもハッキリと認識しています。

そのような探究心を再び強く揺すぶったのが、タイトルにもある「極地」で行う「バイクパッキング」のレース。厳冬期の北極圏近くで衣食住全てを自転車に積載して行う長距離レースで、そのほとんどが自分にとっての未知でした。

あまり知られていないカテゴリーの競技ですが、出場しているレースのことはもちろん、その準備やトレーニングを含めて、宇宙に近い場所での活動の日々を綴っていければと思います。

少年時代に熱くなったあの感覚が再び訪れたのは、ちょうど2年前。『Safety to Nome』というバイクパッキングのドキュメンタリームービーの広告映像を観たときでした。


それは真冬のアラスカを縦断する「Iditarod Trail Invitational 1000(通称 ITI1000)」というレースが舞台。気温はマイナス40℃台にもおよび、距離は1,000マイル(=1,600km)、制限時間はなんと30日。地球上で最も過酷なミッションの一つであることは、その3分に満たない映像からも容易に想像できました。

「THE WORLD’S LONGEST, TOUGHEST AND MOST REMOTE WINTER ULTRAMARATHON」。映像内にもあるレースのキャッチコピーの通り、極寒の大地での活動は想像以上の厳しさがあります。それも1,000マイルの距離そして数十日に及ぶレースとなると、そう簡単に出場できるものではありません。実際、その出場権を得るためには条件をクリアしたギア・ウエアの準備、そして指定された幾つかのトールゲートレースを完走する必要があります。

そしてこの冬、2年間の準備期間を経てトールゲートとなる冬季のバイクパッキングレースの1つ「Susitna100」にエントリーしました。舞台は「Iditarod Trail Invitational 1000」と同じアラスカ。

次なるレースへの出場権を得ることももちろんですが、通常よりも大きなバイクを海外に持ち出すことや、レース前後の起点となる都市アンカレッジの何処に何があるのか、氷で覆われた街での車の運転など、今後の海外遠征も見越してレース以前に経験しておくべきことはたくさんあります。1,000マイルの道も一歩から……。

「Susitna100」は距離こそは100マイル(=約160km)ですが、レースが開催されるSusitna地方も夜間には最低気温がマイナス40℃近くに達し、一歩間違えば生命の危機に瀕する極寒の大地。どれだけインターネットで入手した情報を元に事前準備をしても情報と体感の差分は必ずあるため、現場に身を置くまではその確からしさを検証できません。

今回は次のターゲットレースとなる350マイル(=560km)を走破することを前提にギア・ウエア・食事を用意して携行し、リアルフィールドでのテストを繰り返しながら進みました。

さて、まずは聞き慣れない「バイクパッキング(Bikepacking)」について。その単語が示す通り自転車に荷物を積んで行うアウトドアアクティビティで、もう少し噛み砕けば「マウンテンバイク×ミニマリストキャンプ」と言ったところでしょうか。

いま写真を見て「タイヤが太い!」と思われたかもしれませんが、タイヤ幅がなんと4.6インチ(12cm弱)もあります。このような自転車は、マウンテンバイクの中でも「ファットバイク」と呼ばれています。

ファットバイクの発祥地は、アメリカのミネソタ州。冬は氷と雪に包まれた生活を送る地域で雪上でも走れる自転車として誕生しました。見ての通りタイヤの接地面積が広いので、凍結・積雪した路面でも安定して走行することができます。アラスカのバイクショップでも店舗の中心に置かれていて、今ではメジャーな乗り物になっています。

ファットバイク自体は以前から日本に入ってきてはいましたが、割と見られるようになってきたのはここ数年。日本では自転車屋さんに完成車が並ぶことも少ない希少種の自転車です。

今回出場したレースの装備リストにもありますが、雪上でのバイクパッキングでは重い荷物を積載した状態での安定走行をするために太さ4インチ以上のタイヤを使用することが推奨されています。

ファットバイクの本場とも言えるアラスカでは、4.6インチよりもさらに太い4.8インチのタイヤや、金属のピンが埋め込まれたスパイクタイヤ、そして自動車のスタッドレスタイヤと同様の細かい溝が刻まれたものなど、さまざまなファットバイク用のタイヤが販売されています。

「Bike」だけでなく「Packing」に関してもアラスカのバイクショップではギアの販売が充実していて、フレームに取り付ける様々なバイクパッキング用のバッグが売られています。

前後左右の重量配分を考えずに自転車にバッグを取り付けると、バランスが崩れて走破性に影響が出るため、使用頻度も考えた上での収納計画が肝になります。そして、これがバイクパッキングの醍醐味の一つでもあります。

特にマイナス30℃を超える環境では素手を外気にさらすことは凍傷のリスクを負うため、基本的には何の操作をするにしてもグローブを着用したまま行います。

そのため野外で行う行為の全てが素手の感覚では行えず、バックルの開閉ひとつ取り上げても、そのユーザビリティ次第でストレスが倍増します。そこでレース中に使用頻度が高いフレームパック類は、原寸ベースでプロトタイプをいくつか作って検討し、アラスカに持ち込みました。

たとえレース中にファスナーが凍りついたり壊れたりしても、中身が簡単に飛び出さないようになっていたり、降雪やタイヤから巻き上がる粉雪がポケット内部に侵入して中身を濡らさないための工夫など、汎用の市販品では対応しきれない細かな部分に到るまでシンプルな構造の中にアイディアを詰め込みました。

それでも実際に極限環境で使用すると改良の余地を感じる部分がいろいろと出てきます。「経験以上の情報はない」。そう思う場面がこのレース2日間でこれほどあるとは思いませんでした。

レースに必要なギアを全て自転車に取り付け、バッグを一切身につけない選手もいますが、私は〈ultimate 22〉を背負い100マイルの旅を共に過ごしました。

カリマーのサイトの説明を読むと、クライミングだけに特化した製品かのように思ってしまいますが決してそうではありません。実際に使ってみるとサイズ感や使い勝手を含めて多用途に使える製品であることが分かります。

テクニカルな登攀テストの上に製品化されているだけあって耐久性の高さはもちろんのこと、〈ultimate〉シリーズのリュックサックに使われているモールドバックパネルとショルダーパッドが共通採用されているので、重量がかかった状態で背負い心地が良いのもgoodポイントです。

〈ultimate 22〉は他の〈ultimate〉シリーズのリュックサックに比べて小型(22L)で、背負ったときの重心も上方にくるため、今回のようなサイクリング含めアクティブなアウトドアスポーツでも快適に使用することができます。

両サイドにストレッチメッシュのポケットがあり、今回のレース中にもウォーターボトルや補給食などを携行するのに活用しました。また蓋部分の裏にあるファスナー付きメッシュポケットも思った以上に容量が大きく、ヘッドライトなどのギア小物やスペアグローブなど出し入れ頻度の高いギアを必要なときにさっと取り出すことができるのも便利でした。

特に気温がマイナス30℃近くになると自分が吐く息も何もかもが凍り、何かを取り出すために自転車を停めた瞬間から身体が急激に冷えてくるのを感じます。そのため寒い夜間にルート上で頻繁に停まったり、チェックポイントに到着してから必要なものをモタモタ取り出しているわけにはいけないことを自己防衛本能が教えてくれます。

そのため、極寒の夜に必要な物資を、比較的気温が高い昼間に〈ultimate 22〉の中へ移し替えておくというルーティーンを、次回以降のさらに長いレースに向けてテストしながら進みました。

このまま書き進めると初回にして長編になってしまうので、今回はこのあたりで一旦〆。この旅の続きは、あと2、3回くらいに分けて書いていこうと思います。

高い山の頂を目指す垂直方向の「ultimate=究極の」チャレンジもあれば、このような水平方向に広がるultimateな極地冒険もあります。宇宙の話題からはじまったこのアンバサダーレポートですが、まずはこの奥深い地球探査の日々よりいろいろな話題をお届けしていこうと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。

一瀬 圭介

一瀬 圭介(いちのせ・けいすけ)バイクパッキングアスリート、フィルマー 。アラスカなど極北地帯で開催されるファットバイクによるバイクパッキングレースを中心にアウトドアアクティビティに興じる。また、アウトドアフィルマーとして国内外の山岳フィールドにおけるマウンテニアリング、トレイルランニングなどの映像制作も手がける。主な野外活動フィールドは福島県、安達太良山・岳温泉。

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