山とからだ vol.1

今日、様々な山行スタイルが確立し、あらゆるギアが開発されています。カリマーは製品をつうじて、登山時の疲労や負担ををいかに軽減できるかを軸に日々研究、商品開発を行っています。

そこで『karrimor WANDER LABO:山とからだ』では、本来、体とはどのように動く仕組みなのか、どのように動かせば効率的なのかといった、人体の観点から登山時の疲労軽減のためのスキルを紹介していきます。体に意識を向けることで、自分が今どのような状態なのか、思い描くようなパフォーマンスを実現するためにはどうすべきかが自ずと見えてくるはずです。

カリマーでは、山行時の疲労軽減には、自分の状態に合わせた素早い問題解決こそが、カギになると考えています。カリマーの大型リュックには、歩きながらサイズ(背面長)を調整することのできる〈SAシステム〉が装備されています〈詳しくはこちらを。〉荷重を効果的に分散するのが主な機能ですが、特に疲労時にとても役立つ、あらゆる問題を解決することができる機能です。

では、〈SAシステム〉と同様に疲労時に「からだ」側から対処できることにはどのようなことがあるのでしょうか。いくつかありますが、今回はそのうちの一つである「呼吸」についてお話します。呼吸は全ての動作の源。山行をより快適かつ、アクティブにするために、その重要性をフランクリンメソッド・エジュケーターの吉倉あいさんと紐解いていきたいと思います。

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呼吸は大切?

一般的に、“深い呼吸はリラックス効果が得られる”など、呼吸の重要性について語られることが多いのは事実。ただ、頭では理解していても実感として「本当にその通りだ」と思っている人は少ないのではないでしょうか。リラックス効果でいうと、ゆったりとした呼吸によって副交感神経が優位になり、体は緊張から解放され精神は安定します。またその逆も言え、精神が安定していると体はより効率的に動くことが可能となります。精神と体は常に繋がっているのです。

体が疲労しやすかったり、うまく動かないと、フィジカル面に原因があると考え、体を鍛えようとします。間違ってはいませんが、もし正しい呼吸ができていないことで体がうまく動かせていないとしたら…?? 一見関係が無いように思える「呼吸」には、無駄なくエネルギーを効率的に循環させ、高いパフォーマンスの支えになる、大きな力があるんです!

効率が良い呼吸とは?

「効率的な呼吸」とは、深い呼吸のこと。酸素は体を動かすエネルギーになるため、私たちは常に呼吸を行っています。酸素をより多く体に取り込むことができれば、体は効率的に動きます。呼吸が浅く、1回の呼吸で入る酸素の量が少なければ、おのずと呼吸の回数は増え、心臓をたくさん動かす必要があります。これは非効率な状態で、呼吸自体にエネルギーを使ってしまっていると言えます。

そうすると、「登山時や疲労時に深い呼吸を意識的に行えばいいのでは」と考えますが、急に深い呼吸を取り入れてもその効果は限定的。自分の能力以上の重いものを持ち上げたり、動かしたりするためには、ある程度の筋力トレーニングが必要なように、呼吸にも訓練が必要となります。また呼吸には副交感神経にも作用し、精神的な安定をもたらせてくれます。ただし、リラックスしすぎると体はうまく動かなくなります。つまり、浅く速い呼吸は体が過緊張になりやすく、深すぎる呼吸は体が休まってしまします。呼吸という行為はなかなか目に見えないのでその判断が難しいのですが、この浅すぎず、深すぎないバランスの良い呼吸が登山時に重要となってきます。登山時はなるべく呼吸が乱れないように一定のペースを保ちます。これは登りの時だけでなく、下りや平地を歩く時も同じです。下りや平地を歩く時は登りの時の呼吸ペースに合わせ歩く速度を調節します。そうすることで呼吸の乱れが少なくなり、疲れにくい山行が可能となります。また休憩時は深く呼吸すると精神的に落ち着き体の回復に効果的です。

今回は、そんな登山時に役に立つ呼吸法に加え、普段のトレーニングで身につけることのできる呼吸法をご紹介していきたいと思います。


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呼吸の70%は横隔膜

呼吸トレーニングを紹介する前に、呼吸の仕組みを紹介していきたいと思います。まず、呼吸は肺が自律的に行っているわけではありません。呼吸を行う筋肉の70%は横隔膜、30%は肋骨間に付着している筋肉と首につながる筋肉が担っています。この横隔膜こそが良質な呼吸のカギとなります。

呼吸時、主に使われている横隔膜がうまく動かないと、残りの30%の筋肉で呼吸をしなければならず、補助筋であるはずの肩や首につながる筋肉を使ってしまい、肩や首が疲れてしまいます。試しに鼻から大きく吸ってみてください。無理やり大量に吸い込むと首や肩の筋肉が緊張しますよね? 横隔膜がうまく動かないと浅い呼吸となり、さらには首や肩のコリの原因にもなります。

この横隔膜がうまく動かない原因の一つに“悪い姿勢”があります。デスクワークにありがちな前かがみの姿勢が長時間続くと、肋骨のみぞおちが圧迫され、固くなり動きが悪くなります。あまり知られてはいませんが、横隔膜は筋肉です。

横隔膜は肋骨の下にドーム状に付着しており、胸とお腹を分けています。呼吸をするたびに上下に動き、息を吸うと横隔膜は下に下がり肺が膨らむことができるスペースを確保してくれます。スペースが大きければたくさんの酸素を肺に取り込むことができます。息を吐くと、横隔膜は弛緩し、上に上がり、肺から空気が押し出されます。肺は肋骨の中にあるので、呼吸をすると肋骨は前後左右あらゆる方向に動きます。上の図をみながら呼吸をしてみてください。自分の横隔膜をイメージすると呼吸の仕組みが分かり易いかもしれません。

横隔膜に限らず、良い筋肉とは柔軟性と強さを兼ね備えよく動きます。つまり横隔膜をよく動かすことができれば自ずと理想的な呼吸ができるようになります。また横隔膜の動きを妨げないように普段から胸を開いた良い姿勢を心がける事も大切です。

よい呼吸には横隔膜がよく動く環境、姿勢のよさに左右されますが、登山時に「よい姿勢」というわけにはいきません。重い荷物や山道による影響により姿勢は崩れてしまいがち。となると呼吸にとっては条件が悪いのは一目瞭然。

これまでの説明を踏まえると、登山時によい呼吸をすることは難しいように見えます。しかし、普段から呼吸や姿勢のレベルを高めておけば、体はよい状態を記憶します。多少前かがみの状態や悪い姿勢が続いても、体はその良い記憶を頼りに登山時の動きや緊張に対応することができるのです。


良質な呼吸につながる3つのトレーニング方法

深い呼吸をするためには横隔膜や肺の可動領域を広げることが大切です。肺活量が上がり、呼吸量の向上へと繋がります。では次に日々の呼吸向上トレーニングを3つ紹介してきます。

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1. 日常生活でも横隔膜の動きをイメージする

吸う(2秒)吐く(2秒)を5回。これ1セットとし、1日5〜10回行いましょう。慣れてきたら回数を増やして行きましょう。起床時体は硬いので朝や午前中に行うとよいです。そのためには、横隔膜がどのように動いているかをイメージすることが重要。この時、肋骨やお腹を触りながら呼吸をするとさらに効果的です。

呼吸をすると体は左右前後に膨らむので、自分が苦手な場所(吸いにくい場所)を特定してみましょう。このトレーニングは時間を決めて行うのもよいのですが、ふだんの生活のなかでも意識するクセをつけ、持続するのがベスト。

また、ワークアウアト時にも呼吸のトレーニングを取り入れてみましょう。体を動かす時、人は無酸素状態になりやすいため(特に筋肉トレーニングなど)、動きに呼吸を合わせるのではなく、呼吸にフォーカスして動きを調整するといいと思います。

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2. 胸の伸展

胸を丸める(2秒)胸を反らす(2秒)を5回
これ1セットとして、1日5〜10回行います。
慣れてきたら回数を増やして行きましょう。このメソッドは、
背骨や肋骨を柔軟にし、良質な呼吸が行えるようになります。
肺は体が広がっていく方に膨らんでいくので、胸を丸くした時は
背中に吸う意識、反らした時には胸に吸う意識を
心がける
とよいでしょう。苦手な方をより意識することで、
バランスよく呼吸ができるようになります。

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3. 肋骨を開く

右に体を側屈(2秒)左に体を側屈(2秒)を5回
これを1セットとし、1日5〜10回。慣れてきたら回数を
増やして行きましょう。側屈は肺が広がるスペースを
確保するために、肋骨を開いていきます。呼吸は、体を
側屈した時に吸うようにしましょう。横隔膜が下がり、
肺の広がるスペースができます。この時、より肋骨の伸びを
感じることが重要
で次第に最大領域が広がっていきます。
手を添えるとわかりやすいでしょう。ストレッチは一般的に
吐く時に行いますが、側屈の時と同様に
体を伸ばす時に吸うと効果的です。


呼吸のトレーニングは、日常生活のなかに取り組むことがとても大切。ストレッチなどをいつも行うことは難しいですが、横隔膜を意識した呼吸トレーニングは電車に乗っているときや歩いている時でもできますよね。なかなか忘れてしまいがちですが、チャンスは意外と多くあります。

まずは意識的に呼吸をすることから始めましょう。自ずと自分の“呼吸のくせ”が見えてきます。“呼吸のくせ”は骨格やストレス状態、動きの癖などによって様々。そして呼吸法もまた、スポーツや歌、ヨガ、ピラティス、○○式呼吸法など様々あります。

しかし胸に吸いにくい方もいれば、お腹に吸いにくい方もいるのは事実。重要なのは無理なく行えること、リラックスして深い呼吸ができること、そして横隔膜をよく動かし、肋骨のあらゆるところがよく動くこと、です。

あまり難しく考えずに、まずは気持ちのよい深呼吸を見つけてみてください。気分が良くなれば体は解放されます。きっと、山でもより一層空気がおいしく感じるはず。登山時の疲れを直接的に捉えるのではなく、呼吸を意識することで「からだがいきいきしている!」と、ここちよい達成感を得られるでしょう。ぜひとも日常から登山時まで「意識した呼吸」を取り入れてみてください。その効果は、絶大です。

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吉倉あい(よしくら・あい)

ピラティスインストラクター、フランクリンメソッドエジュケーター。
1979年生まれ、北海道出身。年齢、性別、運動レベルにとらわれず幅広く指導。人間本来の機能的な身体、機能的な動きに着目し日々探求している。

karrimor WONDER LABO

カリマーのプロダクトのどれもが、明確な用途や目的を持って作られています。ブランド名の語源「carry more=もっと運べる」は、未知の領域だった山へと踏み入っていくために必要な荷物を過不足なく運ぶことが、いかに重要な要素だったかを物語っています。ここでは、プロダクトひとつひとつをじっくり余すことなく「解剖」し、「検証」していきます。

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