アフリカ大陸最高峰キリマンジャロ(5,895m)登頂 〜山岳医として奮闘した6日間〜その3【アンバサダー 稲田千秋】

キリマンジャロのお話、最終回はいよいよ山頂へ向けてのアタックです。登山初日から3日目までは比較的のんびりと進んできました。しかし最終宿泊地に到着する4日目からは一転、急に慌ただしくなってきます。

早めの夕食を終え、歯磨きのため外へ出ると、まだあたりは明るく、澄み切った青空が広がっていました。遠くそびえる、キリマンジャロのもうひとつのピーク・マウェンジ峰が、もうほとんど同じ高さに見えます。ちょっとした坂でも早歩きだと息が切れ、ここが高所であることを感じさせてくれました。

そしていよいよ、その時がやってきました。仮眠という名のつかの間の休息を経て、深夜23時半、ついに山頂へ向けて出発です! 天候は快晴、無風。心配された冷え込みもほとんどありません。頭上から足元まで、満点の星空に包まれ、まるでプラネタリウムの中にいるようでした。みなさん体調も問題なく、ゆっくりと一歩一歩登っていきます。

しかし、やはりここから先はたやすくありませんでした。歩きにくいザレ場に足をとられ、酸素もどんどん薄くなっていきます。5,000mを過ぎ、5,500mを過ぎ、徐々に体調に異変が現れる方も出てきました。ペースが落ちてきた方や、息切れの激しい方など、症状を見て、現地ガイドとも相談しながら途中で降りていただく決断もありました。

全員を山頂に連れて行きたいけれど、高度を上げれば酸素はさらに薄くなり、高山病のリスクは上がります。しかも岩場や雪道も出てきます。たとえ熟練のガイドさんたちのサポートがあっても、より重症になってからの下山は非常に困難で危険なものとなるでしょう。

「まだ行けます」「登りたい」という気持ちを受け止めつつ、「降りましょう」とお伝えするのはとても辛いことでした。そして『本当にそうすべきだったのか?』と何度も自問しました。

みんなこの景色を見にきている。登山が好きな人なら誰だってそうでしょう。自分の足で到達した山頂からの景色を夢見て、はるばる遠い異国の地まで来ているのです。その気持ちに最大限応えつつ、かつ安心安全を保証する。それがプロフェッショナルの仕事なんだと思います。

キリマンジャロの主峰であるキボ峰の、直径900mもある火口の上に飛び出しました。ご来光を迎え、やっと暗闇から解放されました! 午前7時、標高は5,700mを超えました。行動開始からすでに7時間以上が経過していますが…まだ全行程の半分くらいなんです。

前方に見えるのが、目指す山頂です。山頂はウフルピークと呼ばれ、スワヒリ語で自由を意味するのだとか。お鉢を回って、あともう少しで山頂です!

これまで何ともなかった方々も、流石にここまでくると頭痛や吐き気を感じていたそうです。何度か「もう降ります」と言いそうになった瞬間があったと、下山後に話してくれた方も居ました。それでも必死にこらえ、一歩一歩ただ前を目指して歩き続けます。陽気なガイドさんたちが歌を歌って励ましてくれました。

山頂付近、ここ100年間で85%も減少したといわれる貴重な氷河の一部を見ることができました。降水量の減少などが原因とされており、「早ければ2022年には消滅する」とも言われていたキリマンジャロの氷河です。まだもうしばらくは持ちこたえてくれそうですが、いつかキリマンジャロが白い山でなくなるのは寂しいことですね。

そしてついに、標高5,895m、ウフルピークに到着しました!猛烈な風が吹き付けており、ガイドさんたちが「写真を撮ったら即下山!」と猛烈に急かしてきます。登頂の喜びを噛みしめる間も無く、すぐに下山を開始。そしてそこから標高差1,200mをほぼノンストップで下ったのでした…。

しかし長い1日はまだ続きます。キボハットに寄って少し栄養補給をしたら、そこからさらに標高差2,200mを下り、2泊目と3泊目を過ごしたホロンボハットまでくだります。ポーターさんたちが「荷物持つよ!」って親切に言ってくれるけど、もちろん有料だから注意です(笑)。

翌日も標高差2,000mをくだり、登山口まで下山します。出発前にはガイド、ポーター、キッチンスタッフが勢ぞろいしてキリマンジャロの歌を歌って踊ってくれました。そして下山後には…キリマンジャロビールです! お疲れ様でしたー! かんぱーい!

そして旅の締めくくり。ツアーの最終日は、サファリカーに乗ってサファリをドライブです!キリンにはじまり…。

ヒヒの群れや、バッファローの群れ…。

シマウマやウォーターバック…。

カバやフラミンゴの大群など、テレビでしか見たことのなかったアフリカの野生動物を間近に見ることができました! 動物好きにはたまりません。

学び多く、また新しい世界が開けた濃密な10日間でした。アフリカ大陸、また行きたいところが増えました。

稲田 千秋

稲田 千秋(いなだ・ちあき)形成外科医、クライマー。学生時代から登山、クライミングに熱中し、季節やジャンルを問わず様々なスタイルでフィールドアクティビティに興じる。現在はフリーランスで世界中を旅しながらクライミングを楽しむ傍ら、国際認定山岳医として、日本の山岳医療発展のため活動する。2016年 Yosemite国立公園 El Capitan "The Nose"完登。2019年 ペルーアンデス Alpamayo "French Direct"登攀など。

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