わたしのロードマップ Vol. 1 平澤まりこ(イラストレーター)

ロードマップとは道すじを示す道路地図のこと。ですが、広くは“目的地・成功に導いてくれるもの”という意味ももちます。旅と生き方、その双方が輝く女性たちの鞄の中身を見せてもらい、彼女たちの魅力の理由を探る連載。
第一回目は、国内外問わず旅に出ては、絵と文章を用いて本を制作しているイラストレーターの平澤まりこさん。「ちょうどラトビアから帰国したばかりなんです」と言う彼女に、その楽しいお土産話も含めて、愛用している旅のお供について伺います。

photo MOEKO ABE
text TRANSIT

現地の人と仲良くなるための魔法の道具たち

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まず鞄から取り出されたのは、小さなお弁当箱のようなもの。平澤さんが包みを開くと、器やさじなどの小さな道具が現れます。「お茶の道具です。茶道を学んだ経験を生かそうと、いつしか海外旅行のさいには必ず持って行くようになりました。持ち運びに便利なコンパクトサイズですが、これさえあればちょっとした茶会が開けます」

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器、茶杓、茶筅、陶器の茶筅立て、布巾、ふくさ、それらをひとつひとつ取り出し適所に配置していく平澤さん。そんな一連の流れには、外国人でなくとも見惚れてしまう美しいしぐさと、それによって引き立つ物の佇まいがあります。

抹茶は海外で知られるようになったとはいえ、本物を体験したことのある人はまだ少数派。茶道で楽しめるのは味だけでなく体験だと平澤さんはつづけます。
「茶道には、正座をして、道具を並べ清めるところから漂う特有の緊張感みたいなものもあって、そういう日本古来の時間や行為を共有できると思うんです。外国ではホームステイやホームパーティにお邪魔することが多いですが、そんな時にササっと即席の茶席を作って日本特有の体験をプレゼントできるこれは、本当に喜んでもらえますね」

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「思い立った時に手紙を書いて投函できるよう、街に着いたらすぐに切手を買ってここに入れておきます」というレターセットはPOSTALCOのものを愛用。色づけは、携帯用の水彩パレットと筆で。また旅のノートには、MOLESKINEの薄くて軽いものが気に入っているとか。一度の旅につき、一冊使います。
「“なんでもノート”です。旅でのあらゆる用途に使います。次の制作のアイディアとなるスケッチはもちろん、メモをとったり、現地の人に地図を書いてもらったり、現地の子どもとただただラクガキをし合うこともあります(笑)」

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話を聞いて思うのは、平澤さんが地元の人と交流するため、いかに積極的に、もてなしの心をもって、行動を起こしているということ。そうして得た現地の人に近い視点や特別な体験が、彼女の制作物へとつながっていく。
「私は言語がさほど堪能ではないので……現地の人と仲良くなるにはどうしたら良いか?を自然と考えているのかもしれません」

“普段の自分”でいられる余裕が豊かな旅への近道に

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いくつかの街を移動する旅が多いという平澤さんですが、環境が変わる旅先では体調管理も念入りに。8年ほど前に勉強を始めた「フラワーレメディ」も、今ではすっかり旅の強い味方に。これは1930年代にイギリスで始まった自然療法で、植物のエッセンスを抽出したもの。たとえばウォールナットなら“影響を受けすぎない”、クラブアップルなら“浄化する”などと、種類ごとに効能はさまざま。「違和感を感じたときにササッと取り入れることで、大きな不調や病気を未然に防ぐようにしています」

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もうひとつ欠かせないのが塩とホワイトセージ。「旅では国内外問わず、なんとなく居心地の悪い宿にあたってしまうこともあります。そんな時には塩を撒いて、ホワイトセージを焚くことで、空間を浄化します。私にとっての旅のお守りですね」
トナカイ皮のケースは、ラップランドで伝統的にトナカイ遊牧を行っていたサーミ族のもの。
「彼らもこんな風に大切なものを入れて旅をしていたんじゃないかな、などと想像が膨らみます」
心身ともに普段の自分で居られることは基本ですが、旅を楽しむのに実は最も重要なこと。健やかな彼女の笑顔を前に、そんな思いが浮かびます。

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とにかく使い勝手の良いものが旅のお供になっている、という平澤さん。体温調整には、ずばり「持っているもののなかで一番軽くて暖かいのがこれだった」というカシミアのストールを。熱中症対策には、最初からしわ加工が施されているストローハットを。「しわに沿ってたためばよく、鞄に入れても型くずれの心配は要りません」
旅の鞄はスーツケース+サブバッグとしてカリマーのlancsの2個もちで。リュック携行時の小物の取り出しに長年悩まされていたところ、このパスケースが解決してくれたそう。「パスポートも入るので旅ではもちろん、携帯やPASMOを入れるなど日頃から愛用しています」

単にイラストを描くだけではなく、文章も書いて編集もして、時には地域のブランディングやイベント構成にも携わる平澤さん。そんな仕事のスタイルは彼女の旅と同様に、興味の幅を広く、常に学ぶ意欲をもち、どこまでも自由で物腰柔らか。

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現地の暮らしをあたたかい目線で捉えた平澤さんの装画や文章は、読む者を惹きつけて止みません。それらは旅先で誰もが見られる風景ではなく、旅や暮らしに対する彼女流の姿勢があってこそ。良き旅とは自分でつくるものだと、彼女の鞄の中身は、そんな大切なことを気づかせてくれます。


旅の持ち物

旅の持ち物

帽子/無駄な装飾を省いたシンプルなデザインとかぶり心地の良さで知られるmature ha.の帽子。
ストール/dosaのカシミアのストールは、持っているストールのなかで「一番軽くて一番あったかいもの」を旅のお供に。
ノート/長年愛用していたPOSTALCOのリングノートから、最近ではMoleskineの薄いノートがお気に入り。
皮の小物入れ/サーミ族伝統のトナカイ皮の小物入れには、塩とホワイトセージを入れてお守り代わりに。
パスケース/切りっぱなしのキャンバス使いが素敵なhow to liveのコインケース。ゴム素材の紐が便利。
レターセット/POSTALCOのレターセット。旅先では、切手は見つけたらすぐ購入し、ここに収納。
ペン/書きやすくてお気に入りの黒ペンはSTAEDTLERのもの。
水彩パレット&ペン/コンパクトなパレットと水を入れることのできる水彩筆。
ポーチ/marimekkoのポーチの中にはフラワーエッセンスや塗り薬など細かいものを。
茶道具/持ち運びに便利なコンパクトサイズのセットは、陶芸家・安藤雅信さんの店「百草」オリジナルの「旅包」。
編みぐるみ/ラトビアで出会ったもの。ネズミなのにモデル体型で、クラシックな装いに一目惚れ。

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[ ランクス28 タイプ1 ]
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ポイント

  • 高強度ナイロン使用で耐久性に優れている
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profile

平澤まりこ(ひらさわ・まりこ)

東京出身在住、イラストレーター。広告、装画などの他、海外、国内問わず旅に出て、絵と文章を用いて本を制作している。著書に『イタリアでのことー旅で出会ったマンマとヴィーノとパッシオーネ』(集英社刊)、『旅とデザート、ときどきおやつ』(河出書房新社刊)、『森へいく』(集英社刊)など。ラトビアをモデルとした物語『ミ・ト・ン』(白泉社/小川糸さんとの共著)が10月下旬刊行予定。「フィレンツェの石畳でもネパールの山道でも、リュックを背負っていると気分がすっと軽くなって、たくさん歩いて、たくさんの素晴らしい出会いを経験しました。リュックは私にとって必需品であり、旅のラッキーアイテムです」(平澤さん)
https://www.facebook.com/mariko.hirasawa.37

わたしのロードマップ

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