この夏、乗鞍山麓の原生林に新たなトレイルが開設されました。6月中旬、一般公開に先駆けトレイルを踏破。その様子をレポートします。
乗鞍岳は北アルプス南部の活火山。今回、新トレイルが開かれた原生林は、五色ヶ原と呼ばれる広大な森林地帯にあり、岐阜県高山市からアクセスしました。列車は木曽川の支流・飛騨川添いに北上。目指す森は、この川の源流域にあたります。
山麓のロッジに宿泊後、五色ヶ原ビジターセンターへ。手付かずの自然が残る五色ヶ原は厳格な入山管理がされていて「インタープリター」と呼ばれるガイドなしで歩くことは出来ません。まずはここでレクチャーを受け、コースの概要と乗鞍の自然への理解を深めます。
岩魚見小屋。今回新たに開設された〈ゴスワラコース〉のトレイルヘッド。電気を自然エネルギーでまかない、バイオトイレとウォッシュレットも備える最新設備の山小屋です。
いよいよ入山。凛とした、笹とシラビソの森を進みます。
トレイルは環境負荷を抑えるため、重機を使わずに整備。鉄やコンクリートなど人工資材も使わず、地元の木や石を使用するこだわりよう。コース各所で、関係者の方々の思いや情熱を感じさせられました。
今回ガイドをしてくださった上平尚さん。乗鞍山麓に生まれ育ち、レスキューやスキー指導で国際的に活躍。「乗鞍といえば上平さん」と言われる、山のエキスパートです。穏やかでユーモア溢れる語り口、そして自然への敬意と愛情が溢れる眼差しに、人生経験の厚みと豊かさが滲んでおられました。
トレイルの中間地点にある仙人小屋に到着。コース新設に伴い、休憩やレスキュー、調査拠点として建てられました。五色ヶ原の他の小屋同様、バイオトイレとウォッシュレットを完備しています。ここで昼食をとり、午後の行程に備えます。
乗鞍林道跡。戦後、国策で木材を切り出すために作られました。今は草木や苔に覆われ、時とともに自然に還ろうとしています。林道は険しい地形を這うように、丁寧かつ強固な石積みで作られていて、当時の土木技術や時代背景を知るうえでも興味深い昭和時代の遺構です。
いつしか林道は消え、いよいよ原生林の核心部へ。
倒木の上に樹木が育った「根上がり」現象。この姿となるまでに、いったいどれだけの時が流れたのでしょうか。自然への畏怖とともに、自分の存在の小ささをしみじみと感じさせられます。
トレイルの最深部。「ゴスワラ」とは地元の言葉で、溶岩の塊が重なる地形のこと。清浄な森の香りが漂い、ところどころに口を開ける風穴からは、冷たい空気が流れ出てきます。もしここにひとりで居たら、森に呑み込まれてしまうかもしれない。そう思わせる神秘的な情景に、手を合わせるような気持ちでシャッターを切ったのでした。
下山開始。苔や風穴に足を取られぬよう注意しながら、慎重に斜面を下ります。
コース最後のセクションは飛騨川の源流・黒川に沿って歩きます。「石が黒くてコケが生えるのは、水が清らかな証拠。隣の白川は硫黄を含むのでイワナも住めず、川底も白く見えます」とガイドの上平さん。乗鞍山麓は巨大な水瓶。溶岩台地と森がスポンジのように水を蓄えるため、下流にダムはなく、水害もないのだそう。
6.7kmの道を踏破。ゴールの岩魚見小屋が見えてきました。乗鞍の自然や山で生きる知恵、飛騨の歴史や民俗に耳を傾けながらの山歩きは、単独では知り得ない新たな知識と多くの気づきを与えてくれました。五色ヶ原には今回歩いた〈ゴスワラ〉コースのほかに、〈カモシカ〉(6.7km 8時間)、〈シラビソ〉(7km 8時間)と呼ばれる2つのコースがあり、季節や体力に応じてコース選択が可能です。
下山を祝し、特産の高原トマトジュースで乾杯。この旅の詳細は『Coyote』No.68 「特集・山は王国」にて紹介されています。ぜひお手にとってみてください。
秘境・五色ヶ原 五色ヶ原案内センター:https://goshiki2004.com
岐阜県高山市:http://www.city.takayama.lg.jp/kurashi/1000024/1000130/1001304/1001310.html
今回使ったアイテム
リュックサック:SL 35、ジャケット:beaufort 3L jkt (unisex)、シャツ:delta S/S、パンツ:comfy convertible pants、帽子:grab hat