独特の風格を持つ優美な独立峰。南北3.5kmに及ぶ広い頂稜部から見渡す日本アルプスの山々と食が魅力の秋の御嶽山へ行ってきました。

歩き出すと汗ばむくらいの快適な季節。キャンプ場で過ごした翌朝、真っ暗な森を歩き、眺めの良いハイマツ帯を登り、御嶽山の最北に位置する五ノ池小屋(2,798m)を目指します。

今年営業している山小屋の多くは、感染症対策のため少人数の完全予約制で営業しています。そのため、今回は布団代わりの寝具(シュラフとマット)も背負って登りました。コロナ禍に快適な環境下で泊めていただけることはとてもありがたいです。

薄暗い森をのんびりスタートしてから約4時間。薪ストーブで焼いたシフォンケーキの甘~い香りが何とも言えない五ノ池小屋に到着しました。“山を眺めながら、テラスでティータイム” の妄想に何度後ろ髪を引かれたことか。休憩後、不要な荷物を山小屋に置き、軽くなったリュックサックを背負って再び出発。

五ノ池小屋から、少し下がったところに御嶽山最大の火口湖・三ノ池(2,720m)があります。水深約13mもあるコバルトブルーの水面は、日本アルプス随一の美しさ。登頂にこだわらず、池の散策と山小屋時間をのんびり堪能するのもいいですね。

摩利支天山を見上げながら向かう途中の景色もまた素晴らしく、高度を上げるにつれ、五ノ池小屋の背後に飛騨頂上と継子岳、更にその背後には北アルプスや白山、雲の下には山麓の風景が広がっていました。

剣ヶ峰へ向かう途中に摩利支天山へ。数時間前に樹林帯の中から見上げていた大きな山の狭いピークにも登りました。

サイノ河原の対岸に聳える剣ヶ峰を見渡しながら、岩稜沿いを進む高揚感がたまりません。どうか、この天候が昼過ぎまで持ちますように。

6年前の噴火による火山灰で大半が埋め尽くされてしまった二ノ池。山小屋も新しくなり、休憩スポットとして多くの登山者で賑わっていました。かつてのエメラルドグリーンの美しい光景が、また戻ってくることを願います。

剣ヶ峰の直下には、慰霊碑と新しいシェルターが3つ並んでいます。本来は噴石から身を守るために作られた物ですが、平穏な登山日和は、休憩場所として利用させていただきました。

最高峰・剣ヶ峰(3,067m)までは、一段一段 空気の薄さを太腿と呼吸に感じながら80段ほどの階段を登ります。6年前に周遊した一ノ池(火口)のお鉢や山麓の景色を再び眺めることができ、“生かされている日常は、当たり前でない” ことを実感しました。

山小屋(2,800m)まで下山し、あとは夕食を待つのみ。美味しい空気を吸い込みながら、屋外に敷かれた畳でヨガやストレッチ、テラスでケーキタイムなど、各々有意義な時間を過ごします。

夕食は、野菜や鶏が沢山入った自家製味噌鍋。疲労と冷えた身体を温かい鍋が、一気に癒してくれました。夜空を見上げれば、無数の星と天の川。山小屋の中と外を行き来しながら堪能する夜景は、五ノ池小屋ならではです。

夕食後のお楽しみは、まだまだこれから。スモークされたソーセージとチーズの香りが、焼き上がりまでのひとときを更に引き立て、お酒も進みます。オーナーが薪ストーブで焼いたピザは絶品でした!

翌朝は、薄暗いうちにシュラフから抜け出し、ダウンジャケットとダウンパンツ、ネックウォーマ―(wool neckwarmer)を頭にかぶり、防寒対策万全の状態で山小屋裏の飛騨山頂へ。雲海の色が刻々と変わる神聖な朝、沢山のパワーを自然からいただきました。

新鮮な空気をたっぷり吸い込み、程よい空腹感で山小屋に戻ってくると、暖かい部屋は優しい朝食の香りで満たされていました。思わず目を閉じたくなるほど五臓六腑に染みわたる味噌汁は、早朝散歩で冷えた身体にピッタリでした。

食後は身支度を整え早めに下山する予定でしたが、アップルパイとバターの甘い誘いにあっさり負けてしまいました。薪ストーブから出てきたばかりのサクッとした食感は、この瞬間しか味わえないのだから。

名残り惜しい山小屋を後にし、山麓の胡桃島へ。真っ暗な森をヘッドランプをつけて登っていたときには気づかなかった原生林は苔のオブジェが想像以上に美しく、足元もフカフカで、飽きることなく下りました。まだまだ噴火の痕跡は残っていますが、復興に向けて着々と進化している御嶽山は、グルメと絶景、マイナスイオンを存分に楽しめる素晴らしい名峰でした。