日本近代登山の父・ウエストンや文豪・芥川龍之介や高村光太郎も歩いたと言われる、島々谷から上高地を結ぶクラシカルルートをガイドしました。深い渓谷を遡行し、登り切った峠から望む穂高連峰は圧巻です。

数年前の初夏。残雪のアルプスと新緑が織りなす景色を期待し、島々へ向かいました。

初日は、梓川の支流・島々谷川を溯り、標高差1,400mの徳本峠へ。斜面の狭いトラバースや渡渉、崩落個所など慎重に通過し、アップダウンを乗り越えるアドベンチャーなコースが続きます。

つい時間の経過を忘れてしまうほど、心地よい沢の音と流れの変化が飽きることなく続く道。

「ここを曲がったら、次はどんな風景だろう?」と、渓谷沿いに整備された木道や橋を何度も渡りながら渓谷美を堪能します。

沢沿いを右に左に何度も渡り、足取りが重くなってきた頃、一軒の無人小屋が現れます。明治時代に建てられた風情ある岩魚留小屋の軒先は、荷物を降ろして、ゆっくり休憩するのに相応しい陽だまりでした。(※写真は秋の様子)

岩魚留小屋から徳本峠までの4.5㎞は、更に渡渉を繰り返し、800mも高度を上げていきます。沢から徐々に遠ざかると、最後の給水ポイント〝ちから水〟が現れます。美味しい水で乾いた喉を潤したら、最後の辛い急坂を頑張るのみ。

テント生活に必要な水補充で更に重くなったザックを背負い、九十九折の急坂を登ること約1時間。徳本峠(2,135m)の正面には、待望の穂高連峰。感動です。

展望台から望む、朝陽を浴びた穂高連峰。いつもの登山のように先を急ぐこともなく、優雅な朝でした。

名残り惜しい峠を後にし、踏み抜きそうな残雪にハラハラしながら、上高地へと下ります。

梓川の畔まで、下りはアッと言う間。2日目は、前日の静かな渓谷歩きとは対照的な山岳リゾートを満喫します。

寄り道には欠かせない、囲炉裏でじっくり焼いた嘉門次小屋の名物岩魚の塩焼。

生命の息吹がみなぎる新緑と残雪のアルプス、水面の煌めき、春を待ちわびた人々の賑わい。上高地のクラシカルルートは、そんな初夏にぴったりのコースです。