「釣り」の楽しさを知ったのは、以前ヒッチハイクで訪れた北海道が初めてでした。北海道に在住する友人に連れられ、カヌーで湖や渓流をゆっくり進みながら、手を伸ばしたら届きそうな魚たちに翻弄されたのを今でも覚えています。そしてあれから5年。今度は自転車で戻ってきた北海道で、釣りを体験する機会が再びやってきました。
東京の知り合いに紹介していただいた富良野に在住するユウダイさんは、フライフィッシングのロッドをオーダーメイドで作る作家さん。素材は竹のみを使用し、全行程手作業で作られる非常に繊細な竹ロッドを一本作るのにかかる製作時間は、なんと200時間だとか。
子供の頃から釣りが大好きで、釣りが生活の一部となる暮らしをするため、数年前に関東から北海道へ移住したユウダイさん一家。彼の自宅の大きな窓から一望できる大雪山と富良野らしい緩やかな丘陵風景が、彼が意を決して大都会から移り住んだ理由をすでに物語っていました。
ユウダイさんの作業場にお邪魔し、美しい竹のロッドを手に取らせていただいたものの、フライフィッシングについて何も知らなかった私たちは、彼のロッドがどのようにしなり、魚たちを捕らえるのかただただ想像を膨らますばかり。そんな私たちの好奇心が伝わってしまったのか、「明日、釣り行きますか?」と声をかけてくれたユウダイさんのお誘いに、私たちは迷うことなく「ぜひ!」と二つ返事をしたのでした。
ユウダイさんと釣り仲間の石井さんが知るフライフィッシングのスポットは、富良野から車で一時間ほど走った砂利道の先にありました。北海道とは言えど、7月下旬の富良野は予想外の猛暑。だけど草の茂みから森林に囲まれた渓流へ下りていくと、街中とはまるで違うひんやりとした空気が流れています。
まず最初に、私は釣りについて大きな勘違いをしていたことに気が付きました。「釣り」というと、私は魚を忍耐強くひたすら待つものだと思っていたのですが、フライフィッシングはその全く逆だったのです。魚がいそうなポイントに数えられる程度の回数だけロッドを投げ、魚がかからなかったら上流へ向かって川の中をそのまま進み、次のポイントへ移動していきます。
そして何より私が感激したのが、透き通った冷たい水のなかを、自由にじゃぶじゃぶと歩き回れることでした。普段はトレッキングシューズを履いているので、自ずと靴が水に浸かってしまうことに気を使わなければなりません。ですが、水の中でもグリップの効く防水の靴と速乾防水パンツを履けば、もう無敵。水の冷たささえ気にせず、渓流の中を歩いていけます。
せせらぎを聴きながら木漏れ日のなかを歩いているだけで十分満足してしまいそうでしたが、今日の目的は「フライフィッシング」です。ユウダイさんと石井さんにロッドの投げ方や投げるスポットなどを教えてもらい、エリオットは人生初の魚釣りに成功!釣れたのは、赤い斑点が可愛い小さなニジマスでした。
釣りは、魚の気持ちになることが大事だと、ユウダイさんは言います。効率よくエサを捕るために、川のどういう箇所でエサを待っているか。どんな動きのエサに、反応を示すか。季節によって、どこに身を潜めているか。魚を初めて釣った感動はさることながら、魚の視点になって狙いを定め、生命力溢れる彼らに触れることで、魚たちとその彼らが住む自然をより身近に感じられる気がします。
日本は世界でも有数の消費大国です。近年深刻な問題となっている乱獲などによる水産資源の減少や、自然環境の急激な変化について、私たちひとりひとりが意識すべき時がきていると思います。
フライフィッシングを通じて魚たちの生きる世界に触れ、彼らが生きている喜び、そしてそれを頂くありがたみを強く感じさせてくれた豊かな1日となりました。素晴らしい経験をさせてくださったユウダイさん、石井さん、ありがとうございました!
今回使ったアイテム
ジャケット:vector W’s hoodie (heather)、帽子:rain ventilation cap、ventilation cap ST +d、シャツ:delta W’s L/S