イングランドで暮らすエリオットの家族が今年初来日したのを機に、約1ヶ月かけてのんびりと西日本をロードトリップしてきました。普段めったに訪れることのない観光地や歴史的建造物、そして煌びやかな都会と奥深い自然…。エリオットの家族を日本で連れていきたい場所はたくさんありましたが、そのなかでももっとも体験してほしかったのが、日本の国土の70%以上を占める山地でした。

イングランドの大半の地形がなだらかな丘陵地として知られているように、一番高い山でも1000mを切る高さしかありません。そのため、日本ではどこかの山に一緒に登りたいと前々から思っていたのです。そこで今回は、時期と体力的にぴったりだった四国最高峰の石鎚山、天狗岳に登ってきました。

愛媛県の久万高原から山頂が望める石鎚スカイラインを走り、登山口となる土小屋駐車場へ。土小屋はすでに標高が1492mあるため空気は冷んやりとしていましたが、太陽はぽかぽかとあたたかく、まさに絶好の登山日和。雲ひとつない秋晴れのなか、軽快な足取りで登山スタート。


標高1500mより上の木々の葉はもうだいぶ落ちかけていたものの、まだところどころで赤や黄色に染まった葉っぱが私たちの目を引きます。イングランドでも秋には木の葉が色づき、地面が落ち葉の絨毯になる光景をしばしば見かけますが、黄色く色づく樹が多いため、日本のような燃えるような赤を見かけることは少ないです。そのため、エリオットの家族は色とりどりのビビッドな色に染まる樹々を見て大興奮していました。


登山口から標高1982mの山頂までは約4.6kmで、4時間もあれば往復できるデイハイクにぴったりな距離です。歩き出してから2km弱は登山道というよりも遊歩道のようなゆるやかな道が続きます。それからハイマツ帯に入り、やっと登りが始まったかなと思ったらまたすぐに平坦に近い尾根歩きが始まり、3.5km地点まで1時間足らずで着いてしまいました。

しかしここから、石鎚山が本領を発揮します。これまでの視界がひらけた風景とは一変し、目の前に切り立った岩山が立ちはだかりました。そしてしばらく進むと、鎖場を使うルートと岩場を迂回するルートの分岐に差し掛かり、私たちは迷わず鎖場ルートへ。ここから二の鎖と三の鎖という二箇所の鎖場があり、まずは二の鎖にチャレンジです。
登り始めは鎖を使わずに登っていける角度でしたがそのうち傾斜がきつくなり、気付けばしっかり手足の位置を確保しながら登らなければ大惨事も免れないであろう岩登りに。それまでの散歩コースのような道のりとのギャップに驚きながら、ワクワクしながら先へ進みます。

次に現れた三の鎖はほぼ垂直で、まさに修行のための鎖といった雰囲気。その予想以上に険しい鎖場を前に、登り出すのを躊躇していた私を置いて、クライミング経験のあるエリオットの兄が最初に登り始めました。クライミングは、実際やってみると見ているより何倍も難しくて何倍も怖いというのが私の印象で、鎖を掴む手が冷たくなるのも気にかけず、出来るだけ下を見ないようにしながら無心で上へ登っていきました。


鎖場を登り切れば、頂上まではあと一息。頂上山荘と石鎚神社が見え、あそこがゴールかと思いきや、登山道はどうやらまだ先へ続いています。ここに来るまで知らなかったのですが、石鎚山は最高峰に位置する天狗岳、石鎚神社山頂社のある弥山、南尖峰の一連の山を合わせて石鎚山と呼ぶため、先に見える天狗岳の先端まで行ってやっと登頂のようです。


しかしこの石鎚神社から天狗岳頂上までが、高所恐怖症気味の私にとってなかなかの至難でした。見てのとおり、頂上までは両サイドが崖の尖った岩場を歩かなければならず、2箇所ほどかなり腰の引ける箇所がありました。久しぶりに瞬間的なアドレナリンが出るのを感じながら、頂上に到着したときは心からほっとしました。

石鎚山が気軽に日帰りで登れる山ながらもこれほどの達成感を感じさせてくれるのは、やはり登山道としてだけではなく、山岳信仰として古来から修験道として利用されてきたからなのでしょう。信仰心のない私でも、この荘厳な山に昔の人が神秘的なものを感じた理由は少し分かる気がしました。エリオットの家族に、日本らしい山を経験してもらえて良かったです。