昨年の夏、3ヶ月間自転車でじっくり旅したおかげで、とても馴染み深い場所となった北海道。今回はその時に知り合った余市の高校の先生から講演のお話をいただき、今年も広大な北海道へと戻ってくることができました。

せっかく北海道まではるばる来たのだから、北海道らしいスポットを満喫したい!ということで、去年行きそびれた道南のせたな町にある太田山神社へ行ってきました。海と山に挟まれた地元の人しか利用しない道をしばらく行くと、奥の方に鳥居らしいものが見えてきます。


この太田山神社、何が険しい神社なのかというと、本殿までの参道がとにかく過酷なのです。まず手始めに、入り口の鳥居から角度45度の非常に急な石階段が現れます。写真ではその傾斜のキツさが伝わりにくいですが、階段に垂らされたロープを握っていないと登るのが怖いほどの傾斜です。そして階段の勾配は半分を差し掛かったところでさらに急になります。

階段を登り切ると、ここから森の中の山道が始まります。神社へ行くというよりも、登山をする心構えでいた方がぴったりくるような足場の悪い上り坂です。入り口から本殿までの距離はたったの700mほどなのですが、その間に標高が約330mも上がるため、なだらかな山のデイハイクより体力的にきついんじゃないかと思うほど、息を切らしながら登って行きました。


しばらく進むと、キノコのような形の岩の下に小さな石仏があり、もうそろそろ本殿に到着かなと思い地図を見ると、ここでやっと3分の1くらい来たところ。先はまだ長いです。この後さらに山道は険しくなり、途中には鉄はしごやロープを頼って登らなければならない箇所が出てきました。

この日の天気はどんよりとした曇り空で、静まり返った森のなかに6月から鳴き出すエゾハルゼミの音だけが響いていました。今にも雨が降り出しそうになってきた雲行きのなか、少しずつ霧が濃くなり、辺りの雰囲気のミステリアスさが増します。


そして次に現れたのが、いつ崩壊してもおかしくないような鉄の橋でした。「足元に注意」のサインどおり、霧で濡れた橋はとても滑りやすく、階段代わりに張り巡らされたロープが滑り止めとなっています。日本では、遊歩道のほんの一部が崩れているがために立ち入り禁止となっている観光地などがよくあるなか、この橋が一般参拝客に解放されているのはやはり、この神社が修行の場所として作られたからなのでしょう。


鉄の橋をゆっくり慎重に渡りきるとそこは本殿かと思いきや、目の前に断崖絶壁が立ちはだかりました。そうです、最後にこの鎖を登らなければいけないのです。深まる霧で崖の下はどれだけ深いのか把握できず、さらには風も強くなってきて、思わず上へ向かうのを躊躇してしまうほどでした。

勇気を出して不安定な鎖を7mほど登ると、そこにはやっと辿り着いた本殿がひっそりと佇んでいました。天気が良ければ、そこからは青い海や山が綺麗に見えるのだそうです。本殿とそこから見る景色は、その険しい道のりがあるからこそ素晴らしく思えるのかもしれません。往復2時間ほどのマイクロアドベンチャーは、私たちの期待をはるかに上回る形で幕を閉じました。

北海道の旅を締めくくるのに忘れてはならないのが、無料の天然露天風呂です。太田山神社から南へ30kmほど行ったところにある平田内温泉熊の湯は、川の真横の岩を掘ったところが湯船になっていて、私たちが到着したときは貸切で、ちょうどいい湯加減でした。
しばらくのんびりしていると街灯のない周辺は真っ暗になり、ついには大粒の雨が降り出してきたので、急いで服を着て雷雨のなか帰宅したのもまたいい思い出です。こういった自然と融合したワイルドなスポットが各地にある北海道は、いつ訪れても私たちをワクワクさせてくれます。