アフリカ大陸自転車の旅、第6カ国目はタンザニア連合共和国。東アフリカに位置するタンザニアは、国土が日本の約2.5倍もあるとても大きな国です。その広い国土のほとんどがアフリカらしいサバンナ気候で、貴重な野生動物の宝庫でもあります。また、北東部にはアフリカ最高峰のキリマンジャロ山、インド洋上には世界遺産もあるザンジバル島があり、観光業が成長を続けている国です。

タンザニアに来たからには大自然で生きる野生動物たちを見たり、キリマンジャロ登頂をしてみたいという気持ちがなくはなかったのですが、そういったアフリカの観光費用は驚くほど高く、地元の人の生活風景とはかけ離れた世界であることが難点でした。きらびやかな観光地の誘惑はどこにでも転がっていますが、私たちの旅の本来の目的である「非日常ではなく、現地の日常を経験すること」を改めて思い出し、いつもどおりのありふれた路上をゆっくり旅し始めました。

タンザニアの国境を越えた時間帯はちょうど子供たちの帰宅時だったようで、自転車を漕いでいると道の先に見える学校から大勢の子供たちが溢れ出てくるのが見えました。道沿いに生えたバナナの葉っぱの緑色に子供たちの真っ赤なセーターが映え、元気いっぱいで下校している様子が遠くからでも分かります。

一瞬で子供たちに取り囲まれた私たちは、その一人ひとりの豊かな表情や仕草に魅了され、思わず写真を1枚。タンザニアの子供はマラウィの子供とは違い英語を話せなかったため、何を話しかけてくるでもなく全員が満面の笑みを私たちに向けていました。言葉がなくても、その底抜けに明るい生命力溢れる笑顔が、私たちを自然と笑顔にしてくれていたことは言うまでもありません。

私たちが受けたタンザニア人の印象は、とにかく人懐っこく賑やか。片言の英語とスワヒリ語だけで、大半の事柄の意思疎通ができる気がします。そのため、自転車を漕ぐのを止めると必ず誰かが話しかけにきます。この男性たちはなぜか私の自転車のブレーキに興味を持ち、しばらくの間道脇で立ち話していました。


タンザニアの路上では、思わず二度見してしまうような光景がたまにあります。そのひとつは、壁面に描かれた絵です。散髪屋であること示す角刈りの男性のイラストや、男女トイレの区別を示すイラストなど、絵でお店などの内容を表現していることがよくありました。イラストの絵の多くにアフリカ人らしさはなく、個性的な独特のタッチが走行中の楽しみとなっていました。


さらに目を疑った光景といえば、アフリカハゲコウという鳥が当たり前のようにいる村の光景です。驚くべきは、体高が130cmもあり翼を広げると3mにも達する巨大な鳥にもかかわらず、まるで日常の風景にさりげなく存在するハトのように地元の人から扱われていることです。たとえ小さな子供でも、自分と同じくらいの身長のアフリカハゲコウに向かって石を投げて追い払ったり、非常に低い立場のなかで生きているようでした。その理由は、彼らのとても美しいとは言えない外見と、腐肉を食べる習性から来ているのでしょう。どうしてアフリカハゲコウは、サファリでの大自然の生活を捨て、人間の村へ住み着くようになったのか。その歴史が気になりました。

さて、それでは最後にタンザニアの路上での一番の楽しみについて。それはずばり、食べ物です。食堂やストリートフードのメニューは他のアフリカ諸国といたって何も変わらないのですが、タンザニアは味付けが美味しいところが多く、お米が餅米。値段も約100円と非常に安価でボリュームたっぷりなのです。

また、マーケットの食材も豊富なので、いつもとても満足のいく買い物ができます。アボガド、トマト、玉ねぎ、バナナ一房、お米、ハチミツ…これだけ買っても200円程度です。

マーケットの良さはただ安いだけでなく、交流の場であることにもあります。食材には値札が付いていないことがほとんどなので、売り場の人と会話をしながら、欲しいものを選んでいきます。翌日同じおばさんのところで買い物をすると、少しおまけをしてくれたりするちょっとした気遣いも嬉しいです。

ご飯が美味しく、食材が豊富であれば、自転車の旅はより快適になります。ただひとつ、タンザニアの路上で危険といえる荒い車の運転マナーだけを気を付ければ、ただ村から村へと旅をしているだけで充実感を得られるのがタンザニアの路上だと言えるでしょう。