国土の隅から隅までマラウィをのんびり満喫していると、観光ビザの滞在日数もついに残りわずかとなってきました。このままタンザニア国境まで自転車で向かうには、少しハイピッチで移動をする必要があります。こんなにゆるやかな国を急ぎ足で進むのは何だか乗り気じゃないなぁと思っていたところ、マラウィ湖を縦断できる蒸気船が週に1回運航していることを知りました。たまには視点を変えてもいいじゃないかということで、今回は船旅のお話です。

私たちが3日間お世話になるイララという名前の船には、キャビン、ファースト、セカンド、エコノミーの4クラスがあります。地元の人の大半は一番値段の安いエコノミークラスを選ぶのですが、私たちは自転車と大荷物のことを考慮してファーストクラスを選びました。ファーストクラスといえども個室があるわけではなく、寝床は屋上のデッキ部分になります。このオープンなスペースに、混み合ったキャンプサイトのようにテントを張るのですが、まさか船の上でテント泊をする機会があるとは思ってもいませんでした。

私たちが乗船したときにはまだ乗客が少なく、テントを張り終えると間も無く日没の時間が訪れました。太陽がゆっくりと湖へ沈んでいく様子は本当に美しく、一刻一刻と変化する儚い情景から目を逸らすことができませんでした。

太陽が完全に沈むと、次は湖と空の境目がない水色のなかに、月がぽっかりと浮き出てきました。マラウィ湖の夕焼けは何度見ても素晴らしいのですが、船の上から見る夕焼けは格段に神秘的なものでした。初日からこんなに素敵な時間を過ごし、とても幸先のいい船旅のスタートです。

翌朝目覚めると、船の下の階にはすでにたくさんの人が夜の間に乗り込んでいたようで、前日の静けさが嘘のように混み合っていました。


マラウィ湖の岸はだいぶ沖まで浅く、大型のフェリーは近づくことができないので、ほとんどの発着地点に船着場はありません。そのため、乗客は別の小舟を乗り継いでからフェリーに乗船します。乗客を乗せた小舟は少し沈みかけるほどぎゅうぎゅう詰めで、波で船が揺れるなかフェリーへ乗り移らなければなりません。

フェリーには人だけでなく、島や村への物資もたくさん載っています。この時は手渡しで荷物を引き渡している際、荷物の袋が破れてしまい、小舟にじゃがいもが溢れ出てしまっていました。移動中の穏やかな時間とは打って変わり、乗り降りの時間はまさに混沌と化します。しかしこれでこそ、公共交通機関を使った旅!という気もするのです。

湖の水は、奥へ奥へと向かうほど透明度が増していきます。マラウィ湖の水には人体に影響を及ぼす寄生虫が生息しているので、免疫のない私たちが泳ぐにはリスクが高いのですが、小さな船に乗った青年たちがゆっくりと櫂を漕ぎながら、湖の水を片手にすくって水を飲んでいた光景が印象的でした。

船旅3日目ともなると船のクルーや他の旅人とも自然に仲良くなり、心地よさがさらに増してきます。この日の午前中には、これまで通過してきた島や村とは比べものにならないほど小さな村へ到着しました。この付近の水の色は本当に鮮やかなエメラルドグリーンで、その他の地域の水質とはまったく違っていました。もしかしたら、この色がマラウィ湖本来の色なのかもしれないな、とふと思いました。

地図で見たところ、この村の周囲は大きな山で囲まれているため、村へのアクセスは湖から船で行き来するのが主流のようでした。この村で暮らす人にとって、1週間に1回の船がどれほど重要なものであるかが、フェリーを待ち構える群衆の雰囲気から感じ取れます。浜には大きなバオバブの木が生えており、この人里離れた村にいつか下船してみたいと感じました。

予想をはるかに超えるドラマチックな船旅は、出発してから丸3日経った夜に幕を閉じました。陸路では決して見ることのできなかった風景や人々に出会うことができた船の旅に大満足して、また新たな気持ちでサドルに腰をかけました。