「陸路の国境は自転車でどうやって通過するんですか?」とたまに聞かれることがあります。島国出身の私たちにとって陸続きの国境というものは馴染みのないものですが、アフリカの大半の陸路の国境は非常にカジュアルです。
車での国境越えであれば書類の手続きなど申請にある程度時間がかかるようですが、自転車だと自由に国間を行き来する現地の人々に混じって出入国管理所へ向かいます。時には管理所がごく普通の簡素な小屋であることもあるため、なかなかオフィスを見つけられず、気づけば隣国に片足踏み入れてしまっていることも…。
ナミビアとボツワナの国境は幅の広いチョベ川で隔たれており、ナミビアを出ると同時に巨大なバオバブの木が至るところに出現しだしたのが印象的でした。ボツワナの出入国管理所で無事スタンプを押してもらい、本来であれば「さぁここから自転車に乗って新たな国の空気感を感じよう!」といったところなのですが、この国境は例外でした。その先のボツワナ内は、自転車や徒歩で進入することを禁止されているのです。
その理由は、国境を出るとすぐにチョベ国立公園というサファリの入り口ゲートで、その先の約50kmの道が野生動物の生息地帯を通っているためでした。自転車の旅 南部アフリカ編 vol.1 ~アフリカゾウとの対峙~での一件で野生動物の脅威を思い知った私たちは、サファリ内を自転車で走れたらいいのになどとは微塵も思うことなく、国境ゲートでヒッチハイクをすることにしました。
この国境を通過する主な車両はツーリストの四駆車か大型トラックだったのですが、自転車を積み込んでもらわないといけないため大型トラックを待つことに。すると二台の積荷が空のトレイラーがやって来たので駆け寄って声をかけたところ、私たちをサファリ外まで乗せてくれることを笑顔で快諾してくれました。
ドライバーはジンバブエ人の気さくな男性で、サファリの直線道路を高速で走っているにも関わらず、バッファローを草むらの中に見つけては私に教えてくれました。都市のなかで育った私の目では、到底動物たちを見極めることはできません。
1時間近くのドライブを終える頃にはもうすっかり日が落ち、辺りはうす暗くになっていました。この時私の心のなかに過っていた不安は、今晩どこでテントを張るか、です。サファリから抜けたとはいっても、特にフェンスがあるわけでもないので動物たちは自由に移動することができます。また、野生動物は夕方から夜にかけて行動が活発化するので、暗がりの中でテントをセットアップすることをどうしても避けたかったのです。
そんな不安がドライバーのおじさんに伝わったのか、ありがたいことに私たちを近くのキャンプサイトまで送り届けてくれました。ドライブ中、エリオットとドライバーのおじさんはまるで旧友のようにすっかり仲良くなり、最後に連絡先を交換してお礼を告げてお別れしました。またどこかで会えることを願って。
その晩はキャンプサイト内が暗くて気づかなかったのですが、翌朝起きるとテントの周りに食料を求めたイボイノシシがたむろしていました。やはり、動物たちにとってはサファリでもキャンプサイトでも、出入りは自由なようです。
ナミビア北東部からザンビアの国境付近までは、広範囲に及ぶサファリ内を何度も国道が横切る道が続いたため、ヒッチハイクをする機会が続いていましたが、そんなイレイギュラーな日々もこれでおしまい。また改めて、ここから自転車旅の再開です!相変わらず走行中はただただ草むらが続く退屈な風景でしたが、自転車に乗ると車に乗っていては起こらなかったり、気付けないことがたくさんあります。
自転車のタイヤがパンクしてとぼとぼ歩いていた地元の青年のパンクを修理してあげて雑談を交わしたり、車にはねられた巨大フクロウの死骸を発見したり。路上には小さな出会いがいっぱいです。
ボツワナはナミビアと同様、広大な乾燥地帯に多種多様な野生動物たちが生息している国なのですが、今回はザンビアへ向かうためにボツワナを通過しただけなので、ボツワナ滞在日数はたったの2日間でした。一瞬だったボツワナを後にし、ザンベジ川を渡って、ザンビアへ。ザンビア初日の7月7日はエリオットの誕生日で、あまりお目にかかれないケーキを運良くスーパーでゲットし、川沿いでキャンプをしました。
ザンベジ川にゆっくりと沈む燃えるようなオレンジ色の夕焼けは、まさにアフリカの幻想的な風景そのもの。エリオットの誕生日を祝うその瞬間に、この風景に出会えて幸せだと心から感じました。