「北海道はお盆を過ぎたら急に寒くなるよ」と沢山の人から忠告を受けながら、気づけば9月も終わりに近づいています。まだ野営での寒さはさほど感じないものの、ぐっと冷たくなった風が北海道旅の終盤を感じさせます。今回は、北海道に来たら必ずゆっくり時間をとって会いに行く友人との道央ロードトリップです。
まず最初の行き先は、積丹半島。自転車だとぐるっと北上する必要があるので今回はルート的にあきらめていたのですが、ありがたいことに友人が連れていってくれることになりました。
道中では、早速キタキツネがお出迎え。北海道では頻繁にキタキツネと出会います。しかし、その半数が本来彼らが住むべき自然から離れた街中や路上で見かけられ、人が餌をあげている姿やキツネが自ら寄ってくることがよくありました。その結果、車に轢かれたり、街でゴミを漁ったり、痩せ細って毛並みの悪くなったキツネが多く見受けられる現状でした。野生動物との距離感について、私たち訪問者もしっかり考えて行動すべきだと感じます。
積丹半島には岬がいくつかあり、私たちは夕暮れ前に神威岬へ向かいました。そこへ辿り着くまでの道がすでに素晴らしい展望だったのですが、岬へ続く遊歩道から眺める断崖絶壁とブルーの海のコントラストは圧巻でした。
岬へ近づくにつれ、風はどんどん強くなっていきます。崖の斜面一面がススキで覆われ、傾き始めた太陽の色で全体が黄金色に光って見えました。夏の新緑でも、冬の銀世界でもない、またいい季節にこの場所を訪れられたことをうれしく思いました。
岬の先端に到着すると、岬から数十メートル先の海面に巨大な岩が立っているではありませんか。神威岩と呼ばれるこの岩は、高さが約40m、胴回りは最大の所で50mもあるそうです。事前に何の情報も調べていなかったからこそ、自然が作り出したその神秘的な造形にしばらくの間目を奪われました。この場所に昔から伝承される数々の言い伝えや神話があるのも納得がいきます。
太陽が沈み出すと体感温度が急に下がり、そのせいか辺りには私たち以外誰もいなくなっていました。太陽がゆっくりと海へ沈んでいく様子はまるで一連のショーのようで、息を飲んで最後の一瞬まで見つめていました。静かな広い大地のなかで見るサンセットは、人を感慨深くさせるパワーを秘めています。積丹半島での滞在時間はとても短いものでしたが、この夕日を見ることができただけで、十分贅沢なひとときとなりました。
次に私たちが訪れた場所は「ビーチ」です。とは言っても、ごく普通のビーチではありません。一般的なビーチと違うところは、そのアクセスの方法にあります。まずは車を安全な場所に停車し、そこからは山道を歩いていきます。ビーチへ行くとは思えない装備で、いざ出発です。
連日の雨でぬかるんだ陽の当たらない小道は、キノコの宝庫でした。新鮮ないきいきとしたキノコを発見するたびにエリオットは立ち止まり、興味津々です。ゆっくり20分ほど歩いたところで、森から抜けてある場所に到着しました。
そう、駅です。その駅へ向かうには電車に乗るか山道を歩くかしかない、無人の駅なのです。50年ほど前、駅周辺に小さな漁村があったそうなのですが、今では周囲に定住者はおらず、駅からは狭いながらも管理された山道が海岸と国道のみへと続いています。
駅の前後はトンネルに挟まれいるため、その場所だけ切り抜かれたかのような異空間が広がります。私たちが向かうビーチよりもこの駅の方が有名なようで、人が常駐する代わりに訪問者ノートが置かれていました。
何本かの通り過ぎていく電車を見過ごし、さらに先へ進みます。崖に沿ったトレイルを何度かアップダウンを繰り返すと、目的のビーチが見えてきました! 木の間からちらちらと見えるエメラルドグリーンの海が、私たちの気持ちを駆り立てます。
崖の窪みに現れたひっそりと静まり返ったビーチは、秘境と呼ぶのにふさわしい場所でした。右手の奥には小幌洞窟という洞窟があり、入り口に木の素材がむき出しの鳥居が立てられいて、何とも神聖な雰囲気が漂っています。深い崖で囲まれているため風がほとんどなく、波もとても穏やかです。では、その洞窟のなかには何があるのか…?
それはぜひ、いつの日かあなた自身の目で確かめていただけたらと思います。先に何があるか分からないからこそ、旅はより面白く、想像を掻き立てられるものになると信じています。
今回使ったアイテム
リュックサック:tatra 20、パンツ:journey summer pants