2020年。コロナウイルスの感染拡大により、日本が外国人の入国制限を始める前日に、当時イギリスへ一時帰国していたエリオットが滑り込みで日本へ戻ってきてから早3年半。ついに、厳しい制限やリスクを負うことなく、海外へ旅立てる日がやってきました。いったい誰が、これほど長い期間、このウイルスが世界に大きな影響を与えると想像できたでしょうか。

いざ国境が開けたとなると、会いたい人がいる場所、冒険したい場所は、世界中の至るところにありますが、まずはやはり、長らく会っていないエリオットの家族に再会することが最優先でした。エリオットは3年半ぶり、私にとってはまさに5年ぶりのイギリス帰省です。これほど長く、日本に腰を据えて滞在したのは過去15年近くなかったので、イギリスを訪れることはもちろん、久しぶりに海外の空気を吸うことに胸が躍りました。

ニュースで聞いたとおり、イギリスを含むヨーロッパの大半の国は入国制限を完全に解除しており、飛行機を降りてからはマスクを着用している人もほとんど見かけることなく、懐かしい自分の記憶のままの風景がそこにはありました。
エリオットの家族が現在暮らすIlfracomeという町は、イギリス西海岸沿いの人口1万人の小さな町で、ロンドンからはバスで5~6時間の場所にあります。小さな港と、切り立った崖に囲まれ、ドラマチックな風景が町からとても近い距離に広がっているのが特徴的です。

買い物に行きがてら近所をふらりと散歩して、この美しい景色を眺めることができるのは本当に贅沢で、この感覚は昔住んでた南アフリカのケープタウンに似たところがあると思いました。広い砂浜のビーチにサーファーが賑わう隣町woolcombeもいいけれど、個人的には長い歳月をかけて侵食されてできた表情豊かな岩石海岸に、いつまでも見ていたくなるようなロマンを感じます。

冬のIlfracombeは、夏に観光客で溢れ返るのが想像できないほど、中心街でもしんみりと静まり返っています。現在、Ilfracombeへは列車が通っていませんが、1970年に閉鎖されるまで96年もの間列車が都市とこの町を繋いでおり、夏の休暇地としてとても栄えていたと言います。しかし、1960年代にイギリス国外へのパッケージツアーが人気になったことで、町は衰退の一途を辿っていましたが、ここ数年のパンデミックの影響で、また観光客と移住者が増えてきたという話を聞きました。

観光で町が栄えることは素晴らしいことですが、その反面、新築や改装物件の多くが短期滞在者や観光客向けで、定住者向けの物件数がとても少なく、建物はあっても住宅不足になっているという問題があるようです。この町に限らず、観光業の活性化か、町自体の活性化かという問題は、魅力的なロケーションであればあるほど大きな課題になっているように感じます。

観光に来た人の多くは港周辺に集まりますが、海岸の美しさに劣らず、街中の建築物を見て歩くのも楽しいIlfracomebe。歴史を感じさせる石造りの建物が数多くあり、なかでも海に面して建てられた4~5階建のビクトリアン調のアパートは圧巻です。

また、裏路地にある町でもっとも古いパブは、なんと1360年から続いているのだとか!どんなに小さな田舎町でも、雰囲気のあるパブが必ずといっていいほど一軒ある様子を見ると、イギリス人が水を飲むようにビールを飲める理由が分かる気がします。(笑)

きっかけがなければ、町の名前を聞くことさえなかったであろうこの町ですが、今ではわざわざ時間をかけてでも、ぜひ一度訪ねてみてほしいイギリスの町です。知らなかったイギリスの景色が、ここにはあると思います。