モンテネグロという国がどこにあるか、皆さんはご存知でしょうか?北にボスニア・ヘルツェゴビナとセルビア、東にコソボ、南にアルバニア、そしてアドリア海の向こうにイタリアがある、バルカン半島の国にあります。面積は福島県ほどしかなく、人口もたったの約63万人。直線距離だと3,4日もあれば縦断できてしまうこの小さな国に、私たちは3週間も滞在しました。

その理由は、ずばり見どころが耐えない美しい国だからです。自転車の旅は、想像通り移動がとてもスローなので、同じような風景を何日も見続けることがざらなのですが、モンテネグロではそれがありませんでした。これほどまで変化に富んだ自然が詰まった国は他にないと言っていいほど、毎日楽しませてくれたモンテネグロの魅力を皆さんにぜひご紹介したいと思います。

アルバニアから入国した私たちを出迎えてくれたのが、アルバニアとモンテネグロの国境にまたがるシュコダル湖、バルカン半島最大の湖です。水面に広がる睡蓮の葉と活発に飛び交う鳥たちの様子が、この湖の生物多様性を物語っています。

私たちは、この湖の畔にあるヴィルパザルという小さな町で暮らすベルギー人のマシューに出会い、森と山に囲まれた彼の一軒家で1週間ほどお世話になりました。マシューも元は自転車旅人で、過去にベルギーから中国までを旅したのち一旦ベルギーへ帰省し、次は自らの住処を見つけるため、もう一度自転車でアジアへ向けて出発したそうです。そうして辿り着いたのがヴィルパザル。この土地に魅了され、安く借りれる家も見つかり、最近暮らし始めたということでした。

世界中のあらゆる場所を見てきた彼がこの地を気に入り、ついには定住を決めた理由を私たちもすぐに理解できました。豊かな自然と親切な人々、まだ観光地化されていないローカル感と秘めた可能性。マシューは不定期の仕事をしながら、日中は家庭菜園や鳥の声を聞きながら趣味のカービング、夜は焚き火を囲みながら星を眺めるという穏やかな1日を過ごしていました。彼と共有したそういった時間は最高に豊かで、こういった経験の積み重ねが今の私たちの森の生活にも影響しているのだと思います。

私たちが訪れた当時はシングルだったマシューですが、今は現地の女性と結婚し子供にも恵まれ、お手製のグランピングとカヌーなどのツアー会社をしています。www.hoopoeglamping.com
人生とは、本当にどう転がるのか分からないものだと、彼の行動と生活が教えてくれます。いつかの彼との再会を思い浮かべると、ワクワクが止まりません。

マシューと過ごした時間が楽しく心地良すぎたもので、すっかり腰が重くなっていた私たちですが、出発の時は必ずやってきます。西へ向かうとエメラルドグリーンのアドリア海、北へ向かうと国立公園の山脈。どちらかを選ぶことが出来なかったので、ぐるっと回り道して両方に行くというルートに決めました。

モンテネグロの主要道以外の道は、道幅が狭く、車がほとんど通らないアスファルトの道路なので、とにかく自転車が走りやすい。とはいってもほとんど平坦地がない登り下りを繰り返す道なのですが、それもまったく苦にならないほど、素晴らしい風景が次から次へと出現します。

車が通らない山道ということは、テント泊をする場所も見つけやすく、森の中にひっそりと野宿できるところも最高でした。

人の気配がない森から、急勾配のスイッチバックの道を登りきった先に見えたのが、コトルという世界遺産にもなっている城塞都市。モンテネグロ一番の観光地と言えるでしょう。

車では停車できない絶景ポイントに自転車を停め、眼下に赤い屋根の旧市街地と真っ青の海、それを囲む雄大な山脈を眺めながらのランチタイム。なんて贅沢なんでしょう。上から遠目に眺めたコトルの街は美しいの一言でしたが、街へ着いてみるとこれまで見てきたモンテネグロの素朴な街並みとは別世界でとても驚きました。船着き場には世界中から集まった豪華クルーザーが立ち並び、中にはボート内にエスカレーターがあるものまで。もしモンテネグロを訪ねてこの街だけを観光していたら、この国の今の文化やリアルな暮らしはほとんど何も知ることが出来なかったでしょう。

非日常を感じたコトルをあとにし、目指すは200kmほど離れたドゥルミトゥル国立公園です。この山や森を通り抜ける少し標高の高い道のりは、またこれまでの風景とは異なる美しさがあり、飽きがくることはありませんでした。

目的地までの道のりでさえ、こんなにも楽しませてくれる国立公園の山脈はどんな光景が広がっているのだろうと期待が高まります。モンテネグロvol.2では、ドゥルミトゥル国立公園の魅力を存分にお伝えしたいと思います。
※2016年4月にフィールドに訪れた際の記事となります。