西にヨーロッパ、東にアジア、南に中東と、幅広いカルチャーと2つの大州(ヨーロッパとアジア)にまたがる大きな国、トルコ。初めて訪れたのはもう10年以上も前。すれ違うトルコ人の顔があまりにも多種多様だったことに驚いたのを今でも覚えています。その時はイスタンブールとカッパドキアを2週間ほど訪れ、すっかりトルコを満喫した気でいたのですが、今回の旅で本当のトルコの魅力を知ることになりました。

ヨーロッパに分類されるイスタンブールや南トルコの中心都市であるアンタルヤは、街の様相も人々の考え方もとても先進的。多くの人が英語を堪能に話せたり、宗教観念が薄くなっているのに比べ、都市を少し離れると一世代時代が戻ったかのような素朴な風景が広がるのがトルコの特徴です。

もちろん日本でも都会と田舎の暮らしに大きな差はありますが、イスタンブールで6車線の車が絶えず行き交うハイウェイを経験したあと、南トルコでロバに薪を積んでのんびりと歩くおじいさんを見かけると、「ここは同じ国なの?」と思ってしまいます。

ある日自転車を漕いでいると、道路脇で薪を焚いてトルティーヤのような大きな薄焼きパンを作っている女性たちに出会いました。4人がかりで大量に作っていたため「どこかで売るのかな」と思い、何枚か売ってもらえないかと訊ねると、「お金はいいから持って行きなさい」と新聞紙に4、5枚包んで私たちに差し出してくれました。

トルコ人の、“give and take”ではなく“give and give”の精神は本当にすごいものです。観光地ではあまり感じられないかもしれませんが、これは都会でも田舎でも関係なく、トルコ人の国民性と言っていいでしょう。個人間で行われる“おもてなし”はもちろんのこと、商売をしているレストランでさえも、おもてなしの精神でお金を受け取ってくれないことが多々ありました。目先のお金よりも人と人との繋がりやその時の感情を優先する彼らの姿勢が、私たちの資本主義的価値観に強い影響を与えたのは確かです。


南トルコの魅力は、人のあたたかさだけではありません。ただ田舎道を自転車で走っているだけで、たくさんの出会いと発見があります。この日はあえて小道を選んで走行していると、なんと目の前に巨大な古代遺跡が! トルコには数多くの古代遺跡が残っていますが、まさか田舎道に突如現れるとは思ってもいませんでした。その遺跡には柵もゲートもなく、完全に自然に溶け込んだ状態で、私たちは2人だけで古代へタイムトリップした気分になりました。

地中海に沿ったぐねぐね道は、山と海が隣り合わせの飽きのこない道です。同時に、切り立った崖の多い険しい道でもあります。一歩小さな道へ入り込めば、内陸部の壮観な山脈を望むことができ、こんな小さな生き物との出会いも。

日本でカメというと水の中にいる生き物のイメージでしたが、トルコでは乾燥した路上をゆっくり歩くリクガメをしばしば見かけます。時には道の真ん中をのんびりと横切っていることもあるので、そういったときは持ち上げて森へ早く移動する手助けをしていました。

トルコに入国して以降、現地の家族や道中で知り合った人々の家へ招かれることが頻繁にあり、野宿をする機会がぐっと減っていました。しかしいざ野宿をするとなると、とても容易にテントを張る場所が見つかります。ある時はオリーブ畑の真ん中、ある時は建設途中の家の中など、大抵誰かの所有地ではあったのですが、土地の所有者が私たちを見つけると、いつも決まって笑顔で私たちを受け入れてくれたので、安心して寝泊まりすることができました。

変化に富む素晴らしい景色と日々出会う人々のおかげで、ストレスフリーの充実した時間を存分に満喫させてくれた南トルコ。入国してから気づけば2ヶ月が経ち、先へ進むのが名残惜しい気持ちがありつつも、ブルガリア国境へと近づいてきました。また近い将来戻ってくることを確信し、家族のように迎えてくれた沢山の人たちの顔を思い浮かべながら、軽快な足取りで一方通行の旅はまだまだ続きます。