「これまで旅した国で、どこが一番良かった?」
何度聞かれても、返答するのに困ってしまうこの質問。人や食べ物、文化、気候、自然など、何に重点を置くかによって、その答えは変わってきます。ですが、もし全部を総合してこの質問に答えるならば、私たちはきっとこう答えるでしょう。
「トルコ!!」

中東とアフリカの中間に浮かぶキプロス島での冬季休養期間を経て、寒さも少し落ち着いてきた2月半ば。そろそろ旅の再開へ向けて体が疼き出していた私たちは、春の訪れを待たずして再出発することにしました。キプロス北部からフェリーで荒波に揺られること6時間、トルコ南部のタシュジュという小さな港町に到着です。2年ぶりに足を踏み入れるアフリカ大陸外の大きな大陸への上陸に、胸が躍ったのを今でも覚えています。

トルコに到着して自転車を漕ぎ始めるなり、まず驚いたことがあります。通りすがりの地元の子供達が食べたり飲んだりするジェスチャーをしながら、私たちを手招きしているのを見て、 ”あぁ、食べ物や飲み物をちょうだいと言っているんだな”と反射的に思ったのですが、実際はその逆で、”食べ物や飲み物をあげるからこっちへおいで”と私たちを誘っていたのでした。
アフリカでは物をねだるジェスチャーだったのが、海を渡るなり物を与えるジェスチャーに180度変わった衝撃はものすごく、改めてここはアフリカではないんだと再認識させられました。そして、その通りすがりの子供達が「ようこそトルコへ!」と私たちを歓迎してくれているように感じました。


トルコ南部の主要都市のひとつであるアンタルヤは、地中海と山に囲まれた活気ある美しい街で、まだ2月といえど春のような過ごしやすい気候でした。この街では、自転車旅人のネットワークを通じて知り合った定年退職したおじさんの家に泊めてもらうことになっており、早速落ち合うことに。建築家だった彼は良識のある落ち着いた人で、初対面にも関わらず出会ってまもなく私たちに家の鍵を手渡し。「じゃあ、アンタルヤを楽しんでね!」とだけ言い残し、街へ出かけていきました。こういったことがある度、人と人との信頼関係はなんて素晴らしいものなのだろう、と思わずにはいられません。結果的に、彼を通じて多くの人と知り合い、ツーリストというよりローカルのような心地よい充実した時間を過ごすことができました。

数日間の予定が、結局1週間の滞在になったアンタルヤでの時間。住んでもいいな、と思えるほど居心地の良かった街を去るのは名残惜しいものでしたが、旅人である以上、別れと出発の時がやってきます。将来またこの街へ戻ってくるような予感を感じながら荷造りをし、いざまだ見ぬ大地へ!

トルコ南部の主要道路は海岸沿いに沿っていますが、車通りが少し多いと聞いたため山を抜ける静かな道をルートを選びました。その選択は大正解で、車がほとんど通らないだけでなく遠方に見える雄大な雪山が素晴らしく、何度も自転車を止めてその情景にうっとりしていました。

アフリカとは異なる木の種類や地形、構造物、眼に映るものすべてが新鮮でした。野宿に適した松の木に囲まれた広々とした場所を見つけ、テントを張る平坦地を探していると、そこでピクニックをしていた家族が去り際に紅茶とお湯を私たちにくれました。またしても歓迎されている安心感。その晩は、完全な静けさのなかでフクロウの声だけが大きく鳴り響いていました。

その後、山道は海岸沿いの道と合流し、ここからしばらくは海に沿って漕ぐことに。山が素晴らしいと思ったけど、地中海の鮮やかなブルーの海も本当に美しい!よそ見をしながら走行するのは危険だけれど、どうしてもその深い青色に目を奪われてしまいます。程よいビーチを見つけると、自転車を漕ぐ足を止めて海を眺めながら一休み。素晴らしい山と、美しい海に恵まれた南トルコ。それに加え、とことんフレンドリーな国民性のトルコ人。どうやらトルコの旅は、普段に増してスローな旅になりそうな予感です。
