「アドベンチャー」というワードを聞くと、いかにも大掛かりなエクスペディションや、僻地への冒険を想像する方が多いかもしれません。それは人によって一生に一度の挑戦だったり、置かれている環境や状況によっては実現することが難しいことであったりします。しかし、本当に「アドベンチャー」は私たちの非日常にしか存在しないものなのでしょうか?
私たちと同様、自転車世界一周から戻ったハンフリーズという英国人男性は、時間がかからず自宅から近い、忙しい日々でも手軽に組み込める安価なアドベンチャーのことを「マイクロアドベンチャー」と呼び、そのコンセプトを広めようとしています。

私たちの現在の一時的な拠点である京都は、仕事のあとでも週末でも、気軽に市内から山や川へエスケープできるのが最大の魅力です。長い梅雨が明け、盆地の暑さが本格的になってきた8月上旬。涼しさと開放感を求め、自宅のある京都市の東端から、西端の嵐山上流の川へと、日帰りマイクロアドベンチャーサイクリングの始まりです。

私たちの暮らす銀閣寺近辺から京都市内へは長い下り坂が続き、そのまま街中を突っ切る道をひたすら西へと12kmほど走ります。すると人力車がちらほらと目に付くようになり、目の前にどんと構える清凉寺の仁王門が現れたら、嵐山に到着です。出発から寄り道をしても自転車で1時間弱。京都がさほど大きな都市ではないことを知らされます。


本来であればこの石畳の道は観光客で溢れ返り、自転車を漕ぐのもままならないはずなのですが、新型コロナの影響でまだ客足はほとんどありません。観光都市である京都に観光客がいない風景を春頃は異様に感じていましたが、今では以前の外国人観光客で賑わう様子が懐かしくさえ感じます。

全身から汗が吹き出すなか、緩やかな上り坂から急に傾斜がきつくなる地点で、熱気に包まれていた空気がひんやりとした心地よい空気に変化しました。この瞬間が、まさに山への入り口へようこそ! とでも言われているような大好きな瞬間です。

山林に囲まれた道の先には橋がかかっており、そこから多くの川遊び客が見えました。ここが私たちの本日のお目当て、清滝川です。

しかし、私たちの目的地はあともう少し。橋を渡って以降は車一台がやっと通れる道幅になり、人気もたちまちなくなります。この周辺の山林はすべて自然林なので、同じ緑色でも様々な緑があり、見ていて飽きが来ません。


さあ、ここからがマイクロアドベンチャーサイクリングのもっともアドベンチャーな部分。グラベルロードへ突入です。
さほど整備されていないトレイルと、人の少なさ、そして緩やかな傾斜が、バイクパッキングにはぴったりで、やはりグラベルというだけでアドベンチャー感が増します。途中には数ヶ月前になかった倒木もちらほらあり、梅雨時期の大雨で倒れたのだと推測できました。

そしてついに、誰もいない静かなスポットを発見。今日はここでゆっくりしようと決めるなり、透き通った川のなかへダイブしました。火照った体に冷たい川の水が染み入り、これほどとない爽快感が湧き上がってきます。この暑さでも一瞬にして体温を下げてくれるキンと冷えた川に入るときの感覚は、他の何ものにも代えがたいものです。

たとえ川で泳ぐことが目的であっても、自転車で出発し帰宅することで、その過程でさえも目的になるのが自転車のいいところだといつも思います。遠くへ行きづらい今の状況だからこそ、自転車で行ける距離、さらには歩いて行ける距離の身近なアドベンチャーを、貪欲に探してみるべきときなのかもしれません。
まだ私たちの知らないワクワクは、意外とすぐそばに。