広い青空の下、あるいはほのかな明かりが灯る暗がりのなか、テーブルいっぱいに陳列された日用品や地元で採れた野菜や果物、そして目の前で調理されるストリートフード…。必要なものが何でも揃うスーパーマーケットで日々の買い物をすることに慣れた私たちにとって、市場へ出掛けることは少し非日常を味わうことができる体験です。しかしアフリカではその逆なことが多く、普段の買い物を地元の市場で済ますため、新しく建てられた巨大スーパーマーケットの店内ががらんとしている光景をしばしば見かけます。

初めのうちは、市場で商品ごとに値段交渉しなければならないことを億劫に思っていましたが、それに慣れてくると一人一人と会話を交わしながら商品を受け渡しすることに、自然と心地よさを感じるようになっていました。ザンジバルはかつて東西を結ぶ貿易の島として栄えたこともあってか、朝から晩まで様々な市場が開かれており、私たちを大いに楽しませてくれました。


ザンジバルを訪れた観光客がまず最初に訪れるのは、海辺にあるフォロダニ公園で開かれるナイトマーケットでしょう。そこには熱気むんむんのフード屋台がずらっと立ち並び、アフリカでは珍しい海鮮を使ったストリートフードもたくさんあります。辺りに充満する香ばしい匂いに食欲をそそられながらも、明らかに観光客向けの雰囲気と値段設定に若干興ざめし、もう少し夜の街を散策してみることにしました。

内陸側へ向かう大通り沿いには、トロピカルな果物やドライフルーツなどの屋台が軒を連ね、まるで日本の夏祭りのように人で溢れ返っていました。この活気が毎日のことだと言うから驚きです。それからしばらく歩くと、タンザニアの路上によくあるフライドポテトやオムレツの屋台が増えるにつれ人通りが少なくなり、徐々にローカル感が増していきました。

普段の私たちの夕食は、テントで自炊か宿の近隣の食堂で済ますことがほとんどでしたが、以前マラウィで出会った旅人から「ストーンタウン内には地元の人が集うすごくいいナイトマーケットがあるよ。」と聞いていたのを思い出し、私たちはどうしてもそのマーケットを見つけたくなっていました。そしてストーンタウンの迷路のような薄暗い路地を無作為に歩いて10分。それまでの寝静まった住宅地の雰囲気から一転し、ひときわ明るい路地に出くわしました。

一目見て、そこが探していたローカルマーケットだということが分かりました。屋台には海辺のマーケットと同じようなメニューだけど無駄な飾り気のないストリートフードが、4分の1ほどの値段で売られています。
なかでも海鮮の鉄板焼は地元の人にも人気のようで、おじさんが小さくカットしたタコやイカを豪快に鉄板で焼き出すと屋台のまわりに人だかりができ、焼きあがると皆んな一斉につまようじで突いて食べ始めました。どれだけ何を食べたかは自己申告制で、それをおじさんがざっくりと勘定するようです。信頼と大雑把さで成り立っているそのシステムが、何だかいいなぁと感じました。


その後、このナイトマーケットに何日か通って分かったのは、屋台が始まるのは夜のイスラムの礼拝が終わる7時半からだということ。マーケットの道沿いにあるこじんまりとしたモスクからお祈りの声が聞こえなくなると、丈の長い服と四角い帽子を被った男性と少年が次々とモスクから出てきて、屋台で働く人がゆっくりと食べ物の支度をするのを、皆んな雑談をしながらのんびりと待ちます。そういった何でもない地元の人の習慣に少し寄り添ってみると、彼らの日常生活をちょっとでも垣間見れるような気がするのです。

ザンジバルのマーケットは夜だけ活気があるわけではありません。朝には朝のマーケットがあります。ある朝、いつもより早く目覚めて宿の窓から外を眺めていると、これまでなかった人だかりが海の方に見えました。


急いで駆けつけてみると、この日は不定期で開催されるフィッシュマーケットの日だったようで、海辺はとにかく人、人、人。奥へ向かうにも、人とぶつかりながらでないと前に進めないほど混雑していました。売られている魚の多くは小魚でしたが、中には熱帯魚のようなカラフルな魚もいて、これも本当に食べられるのかなと思ってしまいました。

珍しい魚に私たちが関心を持ったのは言うまでもありませんが、それよりも圧倒されたのは人々の真剣な眼差しと熱気でした。ただの興味本位で紛れ込んだ観光客の私たちに見向きもせず、声を張り上げながら必死で魚を売り買いしている男性たちの様子が印象的でした。


また、人が集まるローカルマーケットには、必ずと言っていいほど手頃なストリードフードが売られています。このフィッシュマーケットもその例外ではなく、広々としたエリアで多くの人がひしめき合いながら朝食を食べていました。

ちゃんとしたレストランでディナーをしたわけでも、優雅にカクテルを飲んだわけでもありませんが、私たちなりのバカンス気分を十分味あわせてくれたザンジバルのマーケット。長らく口にしていなかったバラエティ溢れるフードやドリンクを存分に楽しみ、地元の人に混じってマーケットの活気を体感できたことは、間違いなくザンジバルでの旅のハイライトとなりました。