残雪の北アルプス ~鹿島槍ヶ岳 東尾根~【アンバサダー 京屋 仁】

まだまだ雪がたっぷり残っている5月初旬の北アルプス。雪が締まってきて山スキーには絶好の時期です。スキーを担いで鹿島槍ヶ岳に出かけました。

鹿島槍ヶ岳(かしまやりがたけ)は富山県黒部市、中新川群立山町と長野県大町市にまたがる後立山連峰(飛騨山脈)の標高2,889mの山です。

午前2時、登山口の大谷原を出発します。夜の登山は何度も経験していますが、まだ真っ暗な登山道は何か不気味で、未だに慣れないものです。

今回行く東尾根は鹿島槍ヶ岳のバリエーションルートのひとつですが、雪の多い時期に登られるルートなため、踏み跡が不明瞭で取り付きがわかりづらいのです。私も必死に探しましたが見つからず、結局尾根の末端部から取り付き、猛烈な藪漕ぎを強いられました。

汗だくになりながらもようやく樹林帯を抜けて、一ノ沢ノ頭というピークに出ます。あたりは次第に明るくなり、背後には御来光も見えてきました。

一ノ沢ノ頭は広々としたピークで、遅い時間に出発する人たちにはここが幕営地になることがあります。

鹿島槍ヶ岳の山肌が太陽の光を受けて赤く染まっています。登山用語では「モルゲンロート」と呼ばれ、山が最も美しくなる瞬間とも言われています。

南の方角には爺ヶ岳が見えます。真ん中の顕著な尾根は赤岩尾根といい、夏の爺ヶ岳に登るルートでもあります。

一ノ沢ノ頭からは細かなアップダウンが続き、尾根は痩せて細くなっているので通過には細心の注意を払います。傾斜がきつい部分は雪の質によっても危険度が変わりますが、早い時間だったので雪が締まっていてその心配はありませんでした。

振り返れば今まで歩いてきた東尾根が見えます。結構来たなぁと思いましたが、実は半分もきていませんでした。先は長いです。

岩峰が見えてきました。東尾根には核心といわれる難所が2か所あり、その1つが「第一岩峰」です。ルンゼ状(岩壁に水の浸食作用でできた険しい溝)の雪壁を登っていきます。雪が多いと決して難しいところではないですが、雪が少ないと細かいホールドを拾って登るスラブ状(表面に凹凸が少なく滑らか)の岩壁を登ることになります。

第一岩峰を登りきり、非常に高度感のある急雪壁をトラバース気味に進みます。雪稜上に戻ってくると、もう一つの核心である「第二岩峰」が見えてきます。

第二岩峰はチムニー状(割れ目)の岩壁を登りますが、途中チョックストーンを越えるところがややオーバーハングしていて難しいです。クライミングシューズを履いていれば難なくこなせる岩場も、スキーブーツを履いてスキー板を背負っていると何倍にも難しく感じます。

核心を越えれば素晴らしい雪稜の登行となりますが、まだまだ注意が必要。疲れているときに背後に見える自分のトレース(雪の踏み跡)が、あと少し頑張るエネルギーになります。

最後に急な登りを終えると鹿島槍ヶ岳(北峰)です。奥に見える三角のピークが主峰・南峰です。今日は北峰までにし、ここからスキーで滑降します。

時刻は正午になろうというところ。時間が経てば雪崩のリスクも高まるので短い休息を取り、滑る準備を始めます。今回滑るラインは写真の赤線のところ。北股本谷という谷で、登っている最中もずっと視界に入っていてワクワクしていました。

いよいよ滑降開始。序盤は斜度がきつく心配でしたが、前日の降雪のおかげでパウダーになっており気持ちよく滑れました。ここがアイスバーンだったらと思うとゾッとします。谷の末端まで滑っていくとデブリ(雪崩の跡)が出来ていて、さすがに滑れないのでスキー板を外して、ここからは下まで歩きです。駐車場までは少しですが、スキー板を背負っていると大変です。

登りには何時間もかけたのに、滑るのは数分。もったいないようにも思えますが、これがやめられないのです。また来年も滑りたいですね。車で帰るときに不思議な現象に遭遇。なんて言うんでしょうか? 良いことがありそうです。

京屋 仁

京屋 仁(きょうや・じん)クライマー。長野を中心に活動。フリー、アルパイン、バックカントリー、トレイルランニングとオールラウンドに精通。 主な成果は小川山NINJA5.14a第11登、北岳バットレスDガリー奥壁オンサイトフリーソロ、八ヶ岳大同心大滝オンサイトフリーソロ。

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