ハイキングレポート vol.30 錦秋の涸沢カール【アンバサダー 鈴木佐智子】

氷河侵食によって出来た日本最大級の涸沢カール。迫り上る前穂北尾根の迫力、天を刺す涸沢槍、最高峰の奥穂高岳、前穂高岳や北穂高岳など、期待通りの壮大なスケールが広がっていました。  

上高地バスターミナルから歩き出してから間もなく現れる穂高連峰と梓川の絶景。この場所から見上げる峰々のちょうど裏側にある涸沢で、錦秋のカールをゆっくり眺めたいというリクエストに応え、1泊で往復できるところを2泊3日かけて歩きました。  

清流の音を聞きながら歩く、平坦な道のりが続きます。魚影が分かるほど透明度と清涼感、水のゆらぎに癒されながら、旅の始まりに期待が高まります。  

上高地から歩いて約1時間。明神池の畔にある穂高神社奥宮にも立ち寄り、神聖な空気に包まれました。山岳リゾート地らしく、ゆっくりと過ごす時間も今回の旅ならではの楽しみ方です。 

初日は、小説「氷壁」の舞台として有名な徳沢までのハイキングのみ。足早に通過する人が多い中、広々とした草原にテントを張り、徳沢園の美味しいスイーツや満点の星空、朝焼けに染まる前穂東壁を存分に堪能しました。徳沢の素敵な宿も魅力的ですが、牧歌的な山岳風景の中、テント泊で自炊を経験してみたい方には、おすすめの場所です。  

一夜明け、早朝の神聖な空気を感じながら平坦な道のりを歩くこと約1時間。屏風岩の岩壁を見上げながら、徐々に横尾谷の山岳風景の中へと入っていきます。週末の涸沢を満喫してきた方々とのすれ違いが多い時間帯と重なりましたが、ピークハントを目指していないため、焦ることなくマイペースで進みました。  

本谷橋を渡り、河原でひと休み。煌めく水面に吹く風がとても気持ち良く、汗ばんでいたTシャツが直ぐに乾きました。空腹も満たされリフレッシュしたところで、本格的な登りが始まります。   

階段が続く登り坂を経て黄葉のトンネルを抜けると、紅葉に彩られた山肌が現れました。まるでヨーロッパの山岳地帯にいるような景色に、カメラのシャッターを切らずにはいられません。肩に掛けた新しいポーチ(TC sacoche pouch)には、直ぐ取り出したいデジカメやスマホ、リップクリームのみ。丁度良いサイズ感で、とてもお気に入りです。 

急いで登るのが勿体ない景色。振り返れば、後方には夏に登った大天井岳が。どこを切り取っても絵になる道のりには、足を止めてシャッターを切っている方がたくさんいらっしゃいました。   

陽が差し込む黄金色の道を登れば、いよいよ涸沢。テラスで名物おでんとビールを堪能することを想像しながら、もうひと頑張り。  

正午前に到着したこともあり、下山者が去った後の設営場所は選び放題。岩の凸凹が多いキャンプ地には、テントの下に敷くコンパネのレンタルもありますが、私は小さな石を退けて、岩の間の快適なスペースを見つけながら、隙間に設営しました。今朝のテント撤収時に結露でビショビショになっていたテントも、あっという間に乾いて気分も爽快!周囲を見渡せば、雲ひとつない穂高連峰。あ~、なんて贅沢な時間なんでしょう。この二週間後、この場所が雪景色に変わるとは想像もつかないほど、暖かく爽やかな陽気でした。  

晴天の下、ちょうど番組撮影も行われていました。偉大な名峰に包まれながら、オープンテラスで絶景のランチタイム。下山後の放映も、今日という日を振り返る楽しみになりました。 

さすがに1,000張りのテントの花が咲く週末には負けますが、300張のテントと小屋の灯りが織りなす夜景もお見事でした。想像していた底冷えもなくて暖かい夜。大きな風音で起こされる度に、寝心地の良さをかみしめました。 

天気予報が下り坂だったため、翌朝は早めにテント撤収して下山準備を。峰々の後ろには、どんよりした空。今日は無理かな~、と諦めかけていた瞬間に燃えるような朝が始まりました。

朝陽が登る数分前。岩肌を赤く染めるモルゲンロートを前に、一斉にシャッターを切る人々の笑顔がとても印象的でした。ピークを目指さず、先を急がない。こんな贅沢な山旅もたまにはいいなぁと、期待以上の感動を胸に下山しました。

鈴木 佐智子

鈴木 佐智子(すずき・さちこ)登山やトレッキング、クライミングイベントを開催している「YFクラブ」の登山担当サポーター。これから山歩きを始めたい方やステップアップしたい方が、安心してチャレンジできるクラブ作りをモットーに、日々アウトドアで活動中。

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