手つかずの自然がそのまま残る日本屈指の秘境・大杉谷(三重県)から大台ヶ原(奈良県)を結ぶ壮大なルート。日本有数の多雨地帯がもたらす急峻な渓谷美を求めて歩いてきました(2019年5月のレポートです)。

初日は、早朝の新幹線、夜行バス、前日から現地入りなど、各々の移動手段で参加メンバーと大台町に集合。片道1日1便の登山バスに乗り込み、いざ秘境の入口へ!

宮川第三発電所の脇を通過すると間もなく、エメラルドグリーンの清流と巨大な岩壁をくり抜いた水平道が現れ、期待が一気に膨らみます。多雨地帯の厳しい環境が作り出したⅤ字渓谷。七つの滝と十一の吊り橋を渡る渓谷歩きのスタートに相応しい景色でした。

大日嵓の岩壁の次に圧倒されたのは、落差135mの岩肌を流れ落ちる千尋の滝。苔むす森から見上げた巨爆と新緑は必見。

原生林のアップダウンを経て、水が滴る岩の間を抜けると、神秘的なシシ淵と、その奥に音を立てて流れるニコニコ滝の絶景が現れます。まさかこの数時間後に雨が降って来るとは、想像もできない贅沢なひと時でした。

何という透明度でしょう。豊富な水量が育んだ自然環境は、本当に素晴らしい。

長い休憩の後は、足元が湿った急傾斜やゴロゴロ岩場を登り先を急ぎます。巨大な岩壁を見上げながら平等嵓吊橋を渡れば、山小屋はもう少し。みんなの頭の中は、お風呂のことでいっぱいでした。

桃ノ木吊橋を渡り、桃ノ木山の家に無事到着。夕食時間までは、檜風呂で汗を流したり、ストレッチで疲れを癒す有意義な時間を過ごしました。山奥でこんな贅沢が出来るのも、このルートの魅力のひとつです。

昨夜から降り出した雨は、翌日も終日降り続きました。登り始めて間もなく現れる七ツ釜滝。水量を増した滝の連爆や滝壺も、ひときわ存在感を増し、神聖な雰囲気に包まれていました。晴れている日でも適度な緊張感と高揚感がある渓谷沿いは、足元や鎖が濡れていてさらに集中力を要しましたが、雨だからこそ味わえる達成感がありました。

2004年の台風災害により山肌が崩れ、その後10年間も閉鎖されていた崩壊地。今では木々も芽吹き、自然の生命力と破壊力の凄さを同時に体感できる貴重な場所です。当日は、残念ながら激しい雨の中を速やかに通過するだけでしたが、それはそれで楽しい経験でした(写真は晴れていた日の崩壊地)。

落差は40m位ですが、大きな滑り台を力強く滑り落ちる水量が見ごたえある光滝。ここからしばらくは隠滝や与八郎滝など豪快な滝が続き楽しめます。

大杉谷最深部にある常倉滝。ここは、この後の急登に備え、心と食欲のエネルギーチャージに最適なポイントです。

常倉滝までの穏やかな起伏とは一変し、ここからは滑りやすい木の根の階段や急登が続きます。尾根を通り抜ける冷たい風は、湿ったウエアが体に張り付き、まるで台風のよう。山頂までは、標高差700m。励まし合いながら登り続けました。

高度が上がるにつれ、植生も変化する原生林。特に華やかなシャクナゲのピンク色が彩る幻想的な濃霧の森が印象的。

濃霧のシャクナゲロードや急登を登りきると、日本百名山の日出ヶ岳山頂です。やぐらの中で風雨をしのぎ、とりあえず暖かい物を口にしました。本来ならば、尾鷲の海を一望しながら整備されたハイキングコースを下り、断崖絶壁の大蛇嵓まで足を延ばす予定でしたが、みんなの気分は、やっぱり温かいお風呂。ここまで誰一人心折れることなく、よく頑張りました(写真は晴れた日の山頂)。

最終日、大台ヶ原で台風のような朝を迎えました。早々に登山を諦め、雲上からタクシーで下っていくと、下界は風薫る5月の陽気。身体の芯からカラッとする青空に癒されました。

せっかくなので、建国の聖地・橿原神宮や三十三間堂の歴史や京都の味に触れ、山旅を締めくくることにしました。今回は雨の洗礼をたっぷり受けましたが、冒険心をくすぐる壮大なルートでした。