アフリカ大陸最高峰キリマンジャロ(5,895m)登頂 〜山岳医として奮闘した6日間〜【アンバサダー 稲田千秋】

「国際認定山岳医」という資格があります。ヨーロッパアルプスで生まれたこの認定制度により、今や世界中で「山岳医療の専門家」たちが活躍しています。残念ながら、わが国ではまだ知名度や活動の場も限られている山岳医ですが、今回私は海外ツアー登山に山岳医として参加し、素晴らしい経験と沢山の学びを得て帰ってきました。

キリマンジャロのMaranguルートは、特別な装備や技術がなくても行ける場所としては世界最高地点と言われています。そのため、世界中から多くのハイカーやバックパッカーが訪れます。

しかし、実際にはこの山の登頂はそれほど生易しいものではありません。

高山病のリスクを避けるため、高山を登る際には、宿泊地の高度上昇は1日500m以内に留めるべきと言われています。しかしキリマンジャロ登山の通常行程では、毎日1,000m以上も高度を上げなければならないのです。

しかも、山頂アタック日には深夜23時頃から歩き始めます。当然あたりは真っ暗ですし、とても眠いです。日の出まで7時間以上も、真っ暗な中を睡眠不足の状態で歩き、一気に標高差1,200mも登ります。さらに、登頂後はそのまま標高差2,200mを一気に下らなければならないという。まさに弾丸登山なんです。

山慣れしている人ならいざ知らず、登山歴がほとんどない人や、そもそも運動習慣のない人、持病のある人などにとっては非常に厳しいハイキング。実際、高山病で命を落とす人も少なくありません。

キリマンジャロ登山ツアーに山岳医が帯同するのは一般的ではありません。しかし、こうした本当は過酷なキリマンジャロ登山の現状を考えると、山岳医が現場で役に立てることは、実はたくさんあるのではないかと私は思いました。

今回ご一緒させていただいたお客様は総勢5名。平均年齢66.6歳でしたがみなさんとてもお元気で、体調管理にも気をつかわれており、私が説明差し上げたことなどについてもとても注意深く聞いて下さいました。

お客様スタッフ含め、残念ながら全員での登頂はかないませんでした。それでもみなさんに笑顔で健康で下山していただけたことは、山岳医としてこれ以上ない幸せでした。

私にとって初のアフリカ大陸上陸でもあった今回のキリマンジャロツアー。次回は笑いありドラマあり(?)の6日間の登山の様子と、下山後のサファリで出会った動物たちなどもご紹介していきます。

稲田 千秋

稲田 千秋(いなだ・ちあき)形成外科医、クライマー。学生時代から登山、クライミングに熱中し、季節やジャンルを問わず様々なスタイルでフィールドアクティビティに興じる。現在はフリーランスで世界中を旅しながらクライミングを楽しむ傍ら、国際認定山岳医として、日本の山岳医療発展のため活動する。2016年 Yosemite国立公園 El Capitan "The Nose"完登。2019年 ペルーアンデス Alpamayo "French Direct"登攀など。

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